全3153文字
PR

 「ロケットエンジンの開発はどこに魔物が潜んでいるか分からないが、やっとここまで来た。気を緩めることなく、最後まで開発をやり抜く決意でいる」と、国産新ロケット「H3」のプロジェクトマネージャを務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史氏は語った(図1)。

図1 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史氏
図1 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史氏
国産新ロケット「H3」のプロジェクトマネージャを務める。(写真:松浦晋也)
[画像のクリックで拡大表示]

 JAXAは2020年2月13日、秋田県大館市の三菱重工業・田代ロケット燃料燃焼試験場で、H3ロケット向け第1段主エンジン「LE-9」の「厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT:Battleship Firing Test)」の第8回目(図2)を、続く2月29日には種子島宇宙センター(鹿児島県)の固体ロケットモーター燃焼試験設備で、H3第1段向けの固体ロケットブースター「SRB-3(Solid Rocket Booster 3)」の第3回燃焼試験(図3)を実施し、いずれも成功させた。今後予定される試験や開発が順調に進めば*1、2020年度後半(21年3月まで)に初号機打ち上げとなる。

図2 LE-9エンジン第8回BFTの様子
図2 LE-9エンジン第8回BFTの様子
2月13日に秋田県大館市の三菱重工業・田代ロケット燃料燃焼試験場で実施し、LE-9エンジンの3基同時噴射試験を行った。(撮影:松浦晋也)
[画像のクリックで拡大表示]
図3 SRB-3燃焼試験の様子
図3 SRB-3燃焼試験の様子
SRB-3は横位置で固定し、海に向かって噴射する。(出所:JAXA)
[画像のクリックで拡大表示]
*1 SRB-3の分離試験、第2段の実機型タンクステージ燃焼試験(CFT:Captive Firing Test)、LE-9エンジンのCFTや機体と射点との適合性確認試験といった開発終盤の試験を予定する。

LE-9開発は順調、金属AM製部品もテスト

 田代での第8回BFTは燃焼時間40秒。終了後の記者会見では「試験は予定通り。得られたデータは今後精査するが、クイックルックでは良好な性能が得られている」(三菱重工・防衛宇宙セグメント宇宙事業部技術部H3プロジェクトエンジニアの新津真行氏)とした。

 LE-9の開発は順調に進んでいる。予定していた真空中推力150tfを達成。ロケットエンジンにとって燃費に相当する性能の指標である比推力は425秒の予定のところ422秒まで達成できている。その理由について岡田プロマネは「シミュレーション技術の進歩が大きく寄与している」と説明する。

 LE-9が推力150tfの大型ロケットエンジンとしては世界で初めてエキスパンダー・ブリード・サイクルを採用する(図4)。主燃焼室の壁面に燃料を通し、エンジン冷却と同時に高温ガスを発生させてターボポンプを駆動する。副燃焼室による燃焼を行わずに壁面からの吸熱のみでターボポンプを駆動するエネルギーを得る。構造が簡素化でき、低コスト化とエンジンのどこの配管で破断や漏れなどのトラブルが起きても爆発には至らない堅牢(けんろう)性が同時に得られるのがメリットだ。

図4 LE-9が採用する「エキスパンダーブリードサイクル」のしくみ
図4 LE-9が採用する「エキスパンダーブリードサイクル」のしくみ
燃焼室の熱を燃料の一部に吸熱させて発生するガスの圧力で、燃料と酸化剤を燃焼室に送り込むターボポンプを駆動する。副燃焼器が不要なので構造をシンプルにできるなどの利点がある。(宇宙航空研究開発機構の資料を基に日経ものづくりが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方の課題は壁面からの吸熱で得られる熱エネルギーに限界があり、高推力化、高比推力化が困難なこと。そのため主燃焼室内の燃焼を一様に保ち、主燃焼室壁面の温度むらをなくして一定にそろえるかが高推力化のカギとなる。むらのない状態で壁面温度を材料の限界ギリギリまで上げると、吸熱を最大にできるからだ。そこで「コンピューター・シミュレーションによる燃焼解析を繰り返して最適化を図り、主燃焼室壁面温度を一様に保てる燃焼条件を割り出した」(岡田プロマネ)という。

 田代での第8回BFTでは、2種類3基のLE-9エンジンを同時燃焼させた(図5)。2種類とは、主燃焼室に推進剤を吹き込む噴射器の製作手法の違いで、従来の切削部品を組み合わせた方式と金属アディティブ製造(AM、3Dプリンター)製がある。AM製部品の開発が遅れたため両型式を認定し、打ち上げに使う。

図5 3基が3角形に配置された第8回BFTのLE-9エンジン
図5 3基が3角形に配置された第8回BFTのLE-9エンジン
手前右と残りの2つ(奥と左)で噴射機の製造手法が異なる。また、ノズルの補強用のたがも手前右では軽量化のために減らされている。手前右は噴射機を金属AMで製作した。残りの2つは切削部品を組み合わせている。(撮影:松浦晋也)
[画像のクリックで拡大表示]

 2020年度中に打ち上げ予定のH3初号機では切削部品による噴射器のエンジンを利用する予定だ。次の2号機ではAM製噴射器のエンジンを使用し、以後AM製に移行する。