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 新型コロナウイルス感染症の影響で約1年の延期が決まった「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(TOKYO 2020)」。多くのメーカーが、この世界最大規模のイベントをターゲットに用具や設備などの技術開発を進めてきた。大会延期によってさらに進化するかもしれない用具がある一方、1年後の本番でもそのまま使われる可能性が高い用具もある。

 その1つが日本代表選手団のオフィシャルスポーツウエア(以下、公式ウエア)だ(図1*1。開発テーマは「ダイバーシティ」「コンディショニング」「サステナビリティ」の3つ。誰もが使いやすく、暑熱対策に気を配り、循環型ものづくりに対応するためにアシックスをはじめ、日本のさまざまなメーカーの技術が活用されている。

図1 東京オリンピック・パラリンピックの日本代表公式スポーツウエア
図1 東京オリンピック・パラリンピックの日本代表公式スポーツウエア
公式ウエアとしては、ジャケットやパンツ、Tシャツ、ポロシャツ、シューズなど17アイテムをラインアップする。(写真:日経ものづくり)
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*1 公式ウエアは表彰式や選手村で着用する。開発したアシックスは前回のリオデジャネイロ大会でも公式ウエアを担当した。その後、同社スポーツ工学研究所において約4年間さまざまな新技術を研究・開発し、新しい公式ウエアとして仕上げている。

脱ぎやすく締めやすいファスナー

 誰もが使いやすくするための技術としては基本的に、着脱のしやすさを目的としたものが多い。その1つが、ジャケットのファスナー(図2)。スライダーを下げずとも、左右に広げるだけで開放できる。一方、閉じる際にファスナーの下端を合わせる動作も簡略化した。アシックスは明言しないが、YKKの技術を採用したようだ。

(a)
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(b)
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図2 ジャケットのファスナー
スライダーを下げなくても左右に広げるだけで開放できる(a)。ファスナーを閉める際には、ボタンのように重ね合わせてはめるとファスナーの左右先端が組み合う(b)。(写真:日経ものづくり)

 まず開放時。通常、ファスナーのスライダーを指でつまんで下げる。これに対して公式ウエアでは、スライダーが上にある(ファスナーが締まっている)状態のままでも、ある程度以上の力で左右方向に引っ張ればスライダーから片方の列のエレメントが外れる。スライダーをつまんで下げる、という動作が不要なため脱ぐ時間を短縮できる上、エレメントの位置を探してつかむ動作が苦手な人でも使いやすい。

 YKKでは「クイックフリー」と呼ぶ製品などで「緊急時開放機能」を採用している*2。開口部を閉めるというファスナー本来の機能を維持しつつ、左右に引っ張れば開放されるという機能を実現するため、スライダーの形状で細かな工夫が込められている。具体的には、エレメントに引っかかる部分の形状(テーパー)や高さ、上下面の部材の厚さ(剛性)を微妙に調整し、相反する性能を両立させた。

*2 クイックフリーは2018年度のグッドデザイン賞(金賞)やキッズデザイン賞(内閣総理大臣賞)を受賞した製品。もともとはフード付きの子ども服における「首つりリスク」の軽減を目的に開発されたが、脱ぎやすい点からスポーツ用品でも広く採用されている。

 一方、ファスナーをはめる際には、先端を差し込むのではなくボタンのように重ね合わせて閉じる方式を採用する。これもYKKの「クイックトラック」を採用したようだ。ファスナーの下端にあるスナップは凹凸がはまり合うようになっており、角度の許容範囲も広い。スナップをはめた後にスライダーを下端から引き上げれば済むため、着用時に失敗しにくい。