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巨額赤字に苦しむ日本の鉄鋼メーカーが高炉の休止に動いている。JFEスチールは2023年度(2024年)をめどに東日本製鉄所京浜地区の高炉を休止する(別掲記事参照)。日本製鉄も呉製鉄所の閉鎖と和歌山製鉄所の高炉の休止を発表している。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大による需要の急減が追い打ちをかける。日本の鉄鋼メーカーに何が起きているのか。高炉休止の意味と影響などを、業界に詳しいコンサルタントの古谷賢一氏が解説する。(編集部)

JFEスチール東日本製鉄所京浜地区の第2高炉
JFEスチール東日本製鉄所京浜地区の第2高炉
(出所:JFEスチールのWebサイトから)
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 高さが100mほどある高炉は、上部から鉄鉱石とコークス(石炭を焼き固めたもの)を交互に投入し、下から熱風を吹き込んで鋼の元となる銑鉄を得る。銑鉄は付帯する製鋼設備(転炉や鋳造設備、圧延設備など)を経て薄板や厚板、形鋼、パイプなどの鉄鋼製品となる。

高炉から流れ出る銑鉄
高炉から流れ出る銑鉄
(出所:JFEスチールのWebサイトから)
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 スクラップを電気放電によって溶解して鋼を得る電気炉(電炉)に比べて、高炉は大量かつ安価に鉄を生産できるのが特徴だ。そのため、市場規模が大きくスケールメリットを生かせる薄板などの鉄鋼生産に適している。

 高炉には結晶構造や成分を精緻に調整しやすいという利点もある。高張力鋼板(ハイテン)や電磁鋼板など、自動車や家電などで多用される高級鋼の生産が高炉によるものが主流なのはこのためだ

* 電炉は、設備の規模が小さいので、多品種少量の製品、例えば棒鋼や形鋼などの生産に向く。ただし、原料に鉄スクラップを使っているため、不純物成分が混じりやすく、高級鋼製造が難しい。

 現在、国内の粗鋼生産量は年間1億t前後。高炉休止はこの粗鋼生産能力の減少を意味する。休止した高炉を再稼働すれば生産能力は戻るが、高炉は簡単に止めたり稼働させたりできない。高炉を再稼働するには、炉内の残渣(ざんさ)をかき出すなど、莫大(ばくだい)な時間とコストがかかる。

 高炉の休止は付帯する製鋼設備などの稼働にも影響を与える。高炉や関連設備、グループ企業で働く従業員の雇用にも1000人単位で影響が出る他、周辺産業への波及も懸念される。自動車産業と同様に裾野が広い産業なのだ。

需要急減×供給過剰×原料高騰の3重苦

 今回の高炉休止の直接の原因は、高炉メーカーが抱える巨額赤字にある。2020年3月期の連結最終損益(国際会計基準)は、JFEホールディングスが1900億円の、日本製鉄に至っては4400億円もの赤字を計上している。

 その基本的な要因は、販売不振とコスト高だ。米中貿易摩擦などで生じた世界的な鉄鋼需要の減退によって売り上げが大きく減少。その上、中国の鉄鋼メーカーの過剰供給が続いて価格の下げ圧力を強く受けている。一方で、原料となる鉄鉱石や石炭の価格は高止まりしたまま。こうした状況で日本の鉄鋼メーカーの経営環境は一気に悪化した。

 そのため、高炉メーカーは、競争力を維持しにくい・生産性が低い(=コスト的に割に合わない)製鉄所や高炉を閉鎖・休止して利益改善やROA(総資産利益率)の改善を図ろうとしているのである。

 高炉休止の背景を理解するには、鉄鋼業界特有の「性質」も知っておく必要がある。製鉄業は代表的な装置産業で、巨額の固定資産を抱えいる。一般に、製造原価における固定費比率が大きいと、損益分岐点を境にして、それを上回ると売り上げ増に伴って急激に利益が増大。逆に下回ると、販売量の下落とともに赤字が急拡大するなど不景気の影響を受けやすい。鉄鋼業界はこの典型例と言える。