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 スリーエム ジャパン(以下、3M)は2020年6月中旬、「3Mフェイスシールド」1万枚を厚生労働省へ寄贈した(図1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)と戦う医療の現場向けにと同社の有志が集まり、発案からわずか3週間で新たに開発・製造した(図2)。緊急事態宣言の下、関係者全員が一度も集まることなく、スムーズに開発を進められた背景には3M独特の「15%カルチャー」があった。

図1 厚労省に1万枚寄贈した「3Mフェイスシールド」
図1 厚労省に1万枚寄贈した「3Mフェイスシールド」
製品ではなくこのために緊急開発・製造したが製品化できるレベルの品質という。〔出所:(a)は日経ものづくり、(b)は3M〕
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図2 開発に携わったメンバー
図2 開発に携わったメンバー
左が発案者の岡田幸久氏、右上が生産面をサポートした高階任弘氏、右下が医療向けの仕様提案などで協力した坂本真理氏。(出所:Web取材から)
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門外漢が発案「我々に何かできないか」

 新型コロナと日々戦っている医療従事者を支援したい、我々に何かできないか─。同社フィルター製品技術部の岡田幸久氏がフェイスシールドの生産を思い立ったのは20年4月上旬。医療用品は門外漢だったが、「フェースシールドならなんとかできるんじゃないか」と考え、まずは1人で試作を始めた。

 最初の試作品はシールドフィルムに不織布のバンドを貼り付けただけ。装着感も悪いし、眼鏡とも干渉する。そこで額が当たる部分にスポンジを貼り付けた。これなら基本機能は満たせそうだとして岡田氏は、生産技術に強い旧知の同社マニュファクチャリング・テクノロジー エンジニアリング部の高階任弘氏に相談を持ち掛けた。

 そこから2人はリモート会議などで情報を交換しながら試行錯誤を繰り返し、試作は4度に及んだ(図3)。特に「部材選定で苦労した」(高階氏)という。例えば、最初の試作品で岡田氏が使ったシールドは普通のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムだったが、装着するとすぐに曇る。高階氏が社内の部材在庫に防曇処理された医療用品向けのPETフィルムを見付け、そちらに切り替えた。

図3 開発過程の試作品
図3 開発過程の試作品
最初はシールドフィルムと伸縮バンドだけだった(左)。次に額当てのスポンジを設けた(中央)。写真右は、スポンジを医療現場で使える部材に変えているが、完成版に比べると幅や厚みが小さい。(出所:3M)
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 こうして設計・開発と同時並行で部材調達や製造の手配を進めていった。「なるべく早く世の中に出したかった。そのため当初からアジャイル開発*1をかなり意識していた」(岡田氏)という。

*1 アジャイル開発
要件定義と設計、実装、評価を早いサイクルで繰り返し、さまざまな課題や状況の変化に対応しながら素早く開発を進めていく手法。主にソフトウエア開発で用いられる概念。

 岡田氏らが業務と関係ないフェイスシールド開発に会社のリソースをフル活用できたのにも理由がある。「15%カルチャー」である。事業に役立ちそうだと思えば業務時間の15%を自分の好きな研究や実験などに当ててよいという米3Mグループにおける不文律で「DNAのようなもの」(同社)だ*2

*2 申告や上司の許可は不要で時間も管理されない。「ポストイット」が15%カルチャーに基づいた開発で生み出されたのは有名。