日産自動車がアディティブ製造(Additive Manufacturing、3Dプリンティング)への取り組みを本格化させている。現時点では量販車の部品へアディティブ製造を適用しているわけではないが、研究部門と開発部門を中心に、近い将来の実用化を視野に入れた検討を積極的に進めている。その背景にあるのが、自動車の電動化だという。
電動化で小型化と軽量化が不可欠に
「電動化が進むと部品点数は増える」。こう話すのは日産におけるアディティブ製造の活用拡大をリードする塩飽紀之氏(図1)。鍛造の生産技術出身で、現在は生産技術部門のエキスパートリーダー(新商品工法開発)を務めつつ、パワートレーンの開発部門にも籍を置く。
ここでの電動化とはいわゆるハイブリッド車(HEV)も含む。内燃機関を搭載せず、モーターのみで駆動する電気自動車(EV)だけではない。HEVには内燃機関とモーターの両方を車両の駆動に使うパラレル/シリーズパラレルHEVのほか、日産の「e-POWER」のようにエンジンで発電した電力をいったんバッテリーに蓄え、その電力を使いモーターで駆動するシリーズHEVがある(図2)。
今後、内燃機関だけを搭載した車は確実に減っていくが、日産は「2035年、モーターを搭載した電動車の約50%はHEV」(塩飽氏)とみている。この場合のHEVに搭載するのがガソリンエンジンとは限らない。だが、何らかのエネルギーで発電する仕組みが加わるのは間違いないと予想しているのだ。
純粋なEVならエンジン車より部品点数が減る可能性が高いが、それ以外の電動車はかえって部品点数が増えることになる。これが、「電動化で部品点数が増える」と日産が考える理由だ。自動車としてのスペースは限られているので、各部品に対する小型化の要求は当然厳しくなる。CO2排出量の削減を目指した環境規制に対応する観点でも部品の小型化・軽量化は不可欠になる。
加えて、今後顕在化するのが車外騒音の問題だ。クルマのサイバーセキュリティーや自動運転の安全基準などでも登場する国際連合欧州経済委員会(UNECE)の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」では車外に対する騒音規制を強化している。国際基準である「UN Regulation No.51 03 Series(R51-03)」では、例えば9席以下の乗用車の場合、2024年(フェーズ3)で68dB(A)という基準値が適用される予定である*1。EVでさえも厳しいこの規制に、エンジンを搭載したHEVで対応しなくてはならない。
海外の高級車などでは静粛性を高めるために、エンジンを防音材で包んで対応している例もある。しかし、防音材は厚さ数cmにもなる上に、「ゴルフのキャディーバッグくらいの重さと、1万円単位のコスト」(塩飽氏)がかかる。騒音規制に対応するために、一般の量産車でこのような方法に頼るわけにはいかない。