「取引が切れるなら、自動車メーカーはそうしたいはずだ。タカタ時代にエアバッグで1度大きな嘘(うそ)をつかれている。とても信用できない」(トヨタ自動車出身のある技術者)─。
ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(JSSJ)が造るシートベルトで品質不正が発覚した。きっかけは内部通報で、その声を同社は無視したとみられる。今後、大規模リコールに発展する可能性は極めて高い。
JSSJは、自動車用安全部品メーカーである米Joyson Safety Systems(ジョイソン・セイフティ・システムズ、以下JSS)の日本法人*1。欠陥エアバッグによる大規模リコールで1兆円超の負債を抱えて経営破綻したタカタのエアバッグ以外の事業を買収したのがJSSだ。
事実認定されれば大規模リコール
品質不正に手を染めたのは、同社の彦根製造所(滋賀県彦根市)。20年以上前、つまりタカタ時代からシートベルトのウェビングの強度データの改ざんを繰り返していたとみられる(図1)*2。
ウェビングは、強度の高いポリエステル繊維を材料に使った織布。一般に、クルマの前部座席には低伸度の、後部座席には高伸度のウェビングが使われており、破断時の強度はそれぞれ28k~33kN、27k~28kN、伸度はそれぞれ4~7%、11~13%となっている(図2)。
国土交通省によると、道路運送車両の保安基準の協定規則第16号(車両)に、座席ベルトに関する試験が規定されている。同省は、品質データ偽装の「一報を受け、自動車メーカーとJSSJに調査するように指導した」(同省同課)。これを受けて、親会社のJSSは「試験・製品ごとに、入手可能な20年分の関連データを収集し、検証を実施中」と発表した*3。
JSSは日本のシートベルト市場で3割超のシェアを持つ。強度データの偽装が事実と認定されれば、大規模リコールは必至だ。自動車メーカーにとっては、まさに“寝耳に水”。トヨタ自動車は「JSSJから20年9月上旬に報告があった。現在、該当部品と車両の紐(ひも)付けを進めており、調査中。車両への影響を確認後、必要な対応を講じる」という。ホンダも「影響規模と車種を調査中。今回の不正を重く受け止めている」(表)。