2020年10月30日、三菱重工業がオンラインで中期経営計画「2021事業計画(2021~2023年度)」を発表した。注目はもちろん、事前に「事業凍結」と報じられた小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ、以下スペースジェット)」事業の先行きである。中でも最大の関心は、ビジネスとして事業化するか否か。すなわち、今後同社がスペースジェットの量産をどうするかにあった。
会見の1週間ほど前、共同通信社らが事業凍結を報じた同月22日夜から、同社は沈黙を貫いていた。凍結とは量産を諦めないという意味か、それとも事実上の撤退宣言なのか。会見での同社取締役社長の泉沢清次氏の説明は、「いったん立ち止まる」と結局、曖昧なまま終わった(図1)。
「仮説に回答しても意味がない」
本当に立ち止まるだけならば、新型コロナウイルス感染症拡大の収束後に量産に向けて開発を再開させると捉えるのが普通だろう。泉沢社長は「この(立ち止まっている)間、再開のための事業環境の整備に取り組む」とも発言しているのだ。
ところが、「航空機需要が回復しないときは撤退か」との記者の質問には「市場の回復などについては、今の段階ではその状況を見ていく。それ以降の事業の展開は状況次第」と回答。これを受けて「市場状況を見て、回復がなければ撤退も選択肢の1つか」と畳みかけた質問には、「事業の状況についての仮説に対して今ここで回答しても、あまり意味がないと思う。少なくともこれまで培った技術を今後どのように生かすのか、それはしっかりと考えていく」と、態度を明らかにしなかった。
スペースジェットの量産に関する質問に対して、泉沢社長の的を射ない説明は続く。三菱重工業は20年2月に量産初号機(以下、初号機)の納入時期を21年度以降に延期(6回目の延期)し、同年5月の19年度(20年3月期)の決算発表時には、開発スケジュールの精査を行うと表明していた。
この背景を踏まえて、改めて記者から初号機の納入時期の予定について聞かれると、泉沢社長は「納入時期については、現段階では新たな設定をしていない」と回答。さらに、「量産の時期はいつか」という核心を突いた質問には、「開発をしてから量産。開発スケジュールの話をしていないので、量産の時期についても触れて(決まって)いない」と答えた*1。