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 108ピースのジグソーパズル完成時間をいかに短縮するか─。この目標に業務として取り組んだのはヤマハ発動機の磐田南工場で船外機部品の加工を担う6人だ(図1)。試行錯誤しつつ手順を改善し、最終的に当初の98%減となる1分まで縮めた。

図1 ジグソーパズルの超高速組み立てに挑むメンバー
図1 ジグソーパズルの超高速組み立てに挑むメンバー
ヤマハ発動機の磐田南工場で船外機部品の加工を担う6人が取り組んだ。(出所:ヤマハ発動機)
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 このユニークな取り組みは、同社独自の生産効率化手法「理論値生産」の現場への浸透を狙ったもの。6人はこの後、担当する生産現場にも同手法を展開し、38件の改善提案へとつなげている。まずはジグソーパズルの完成時間をどう短縮していったのか、なぜ理論値生産の習得にジグソーパズルを使ったかをみてみよう。

最初は完成まで50分

 題材としたジグソーパズルは赤富士を描いた108ピースのものだ(図2)。まず、当初のジグソーパズルの実力を客観的に把握するためにチーム全員がそれぞれ挑戦した。結果は最短が40分、長い人では60分と差はあったが平均時間は50分。「一般平均の45分よりも長い」(同社担当者)という状況だった。

図2 今回の取り組みに利用した108ピースのジグソーパズル
図2 今回の取り組みに利用した108ピースのジグソーパズル
(ヤマハ発動機提供の写真を補正加工して掲載)
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 これを改善するため、メンバーで集まって問題点を話し合った。「手を止めて考えている時間がロス」「ピースを全部広げられなかったのが問題」といった意見が出た。つまり、角を探したり裏返したりするといった同じ作業を何回も繰り返している。そして、「全員でやり方が違う」点も問題だった。

 そこでまず作業の標準化に取り組み、次の5種類に作業手順を整理した。[1]ピースを全て表にする[2]角のピースを探す[3]辺になるピースを探す[4]残ったピースを色分けする[5]色分けしたピースを形で分ける、といったものだ。

 [1]は表面の模様を見れば判断できる。[2]は2辺が直線のピース、[3]は1辺が直線のピースを探せばよい。[4]は大まかに色分けすればよい。[5]は4辺の凹凸の数で分類した。1ピースの凹凸の合計は4つなので、凹凸それぞれが0~4のどれかで、合計が4になる組み合わせだ。こうしておけば、ピースを探す時間を短縮できる。

 ただし、作業手順の標準化だけでは取り組みは道半ば。ここで登場するのが理論値生産である。理論値生産では、個々の作業を本当に必要な「価値」、それ以外を「準価値」と「無価値」に分類し、価値以外の作業をできる限り削減していく。これを、理論値生産における価値作業分析と呼ぶ。

 ジグソーパズルの組み立て作業でいえば、ピースをピースにはめ込む瞬間だけが価値のある作業だ。ピースをつかんだり、位置を合わせたりする作業は基本的に無価値である。とはいえ、現実的には価値のある作業だけでは実現できないため、無価値の中にある必要最小限の作業を準価値とする。