約400点の部品を分析
ACEの開発で苦労した点は、リブやボス、アンダーカットといった金型のコストに影響する形状を、自動で認識するアルゴリズムの確立だ。「設計者だったら一目で認識できるが、具体的な条件として定義しなければならない」(吉野氏)。過去に設計した約400点の部品を分析し、アルゴリズムを作り上げていった。
同氏によれば、3Dモデルから成立性を検証するだけなら製造業各社が独自に開発・利用しているツールや市販のツールが多数存在するが、具体的なコストまで算出できるツールは見当たらないという。実際、同社の取り組みを聞きつけた他社から「ACEを使いたい」との要望があり、有償で見積もりを請け負っている。
複合機部品の多くは、樹脂成形品と板金加工品である。ACEは今のところ樹脂成形品にだけ対応しているが、将来は板金加工品にも対応させる。低コストの設計案を自動で生成し、設計者に提示する機能なども検討している。
同社でACEを19年度(19年4月~20年3月期)から適用したところ、設計段階でのコスト評価のタイミングを従来比で1カ月ほど早められた。後工程の調達や量産準備も前倒しで動けるようになり、新製品を市場に素早く投入できるようになったという。玉井氏が掲げた開発期間3割削減の達成も見えてきた。コストについても、金型製造費を含む試作費で数億円、材料費などの原価および業務工数ベースの人件費でそれぞれ数千万円の削減効果があった。
自作の教科書を手に社長が指導
設計改革を指示した玉井氏は、持ち株会社の富士フイルムホールディングスから17年に副社長として富士ゼロックスに入社。翌18年に社長に昇格した。事業会社の富士フイルムやかつて在籍した東芝では医療機器などの設計に従事し、設計・生産技術に磨きをかけた。
設計改革を加速させるため、社長となった今も自作の教科書を手に現場への指導に回る。自ら図面を引いてコスト削減策を示すこともあるという。「口だけなら誰でも言える。生産性を2倍にする、コストを1/2にする方法を具体的に提案すれば、現場は真摯に受け止めてくれる」(同氏、別掲記事参照)。
富士ゼロックスは21年4月に「富士フイルムビジネスイノベーション」へと社名変更し、米Xerox(ゼロックス)との資本関係やブランドライセンスを解消した新体制での本格的なスタートを切る。ハードウエアとしての複合機で競合他社との差異化が難しくなる中、設計改革による経営体質の強化はますます重要になりそうだ。
社長自ら図面引く、教科書も自作 富士ゼロックスの設計革新