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 「マスバランスアプローチ(物質収支方式)」という手法が近年、化学業界で注目を集めている。植物由来の原料やリサイクル材などを使った環境配慮型製品を、より魅力的な形で販売できるためだ。例えば、実際は石油由来原料と植物由来原料を混ぜて造ったプラスチックでも、この手法を活用すれば一部を「100%植物由来」と見なせる。なぜそんなことが可能なのか─。

カカオ豆や電力で活用されてきた

 マスバランスアプローチは、ある特性を持つ原料の投入量に応じて、生産する製品の一部を「その特性を持つ原料(だけ)で生産した」と見なす手法だ。カカオ豆、パーム油、紙、電力など幅広い製品で活用されてきた。これらに共通するのは、環境などに配慮した原料を使った製品とそうでない製品を区別しづらい点だ。

 例えば、カカオ豆の中には労働者の人権や環境に配慮していると第三者機関が確認した認証カカオと、そうではない非認証カカオがある。どちらも「カカオ豆」としては同じなので、チョコレートなどに加工するサプライチェーンの中で交ざることが多い。認証カカオを使った製品を消費者に選んでもらわなければ、認証カカオの市場は拡大しない。そこで登場したのがマスバランスアプローチだ。

 同量の認証カカオと非認証カカオを混ぜてチョコレートを100枚生産したとしよう。実際には約50%の認証カカオを含んだチョコレートが100枚できる。しかしマスバランスアプローチを適用すると、50枚は認証カカオ100%、残り50枚は認証カカオを含まないチョコレートと見なせるのだ。消費者は「認証カカオ100%」と表記されたチョコレートを選ぶことで、認証カカオを後押しできる。

プラスチックのバイオ化・再生を後押し

 化学業界が扱う環境配慮型の原料も、品質や特性が石油由来原料などと同じであれば生産プロセスの中で混ぜてしまう場合が多い。その方が高い効率で生産できるからだ。

 そこでドイツ化学大手のBASFは外部の認証機関と共同で化学産業に適したマスバランスアプローチを開発。2013年からドイツの工場で生産するプラスチックなどの化学製品に適用し始めた(図1)。同社ではバイオマス原料や、プラスチック廃棄物(廃プラ)をケミカルリサイクル*1した再生原料を石油由来の原料と混ぜて使う場合にマスバランスアプローチを適用している(図2)。

図1 ドイツ化学大手のBASFがマスバランスアプローチを適用して造るプラスチックを使用した食品包装材
図1 ドイツ化学大手のBASFがマスバランスアプローチを適用して造るプラスチックを使用した食品包装材
石油由来原料とバイオマス原料の両方を使っているが、第三者機関の認証を受け、一部の包装材を100%バイオマス由来と見なしている。欧州で使われている。(出所:BASFジャパン)
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*1 プラスチックを化学的に分解して石油に近い成分にし、再利用する手法。プラスチックを熱で溶かして再利用するマテリアルリサイクルと比べて、物性が劣化しない。
図2 化学業界におけるマスバランスアプローチ
図2 化学業界におけるマスバランスアプローチ
バイオマスやリサイクル材に由来する原材料の投入量に応じて、製品の一部をバイオマス製品、リサイクル製品と見なす。(出所:BASFジャパン)
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 BASFジャパン経営推進本部サステナビリティ推進室でシニアマネジャーを務める入江剛氏は「マスバランスアプローチの利点の1つは、既存設備を使って環境配慮型製品を造れること」と話す。もしマスバランスアプローチがなければ、環境配慮型の原料が他の原料と混ざらないように専用ラインを用意する必要がある。マスバランスアプローチで専用ラインのような投資を抑えることで、安く環境配慮型の製品を提供できる。

 「100%バイオ」「100%リサイクル」といった売り出し方ができる点もマスバランスアプローチの魅力だ。入江氏は「100%という数字に訴求力があるのは明らか」と語る。プラスチックの中には、そもそもバイオマス100%で生産するのが難しい物もある。マスバランスアプローチを活用すれば、形式上は「100%バイオ」とした製品を販売でき、環境配慮型製品を求める消費者のニーズに応えることが可能だ。

 例えば、ペットボトルに使われるプラスチックとして知られるポリエチレンテレフタレート(PET)はエチレングリコールとテレフタル酸という2種類の原料を3対7の割合で混ぜて造る。植物由来のエチレングリコールは既に量産できているのに対し、植物由来のテレフタル酸は実用化が進んでいない。つまり、現状PETは100%植物由来にするのが難しい。ただ、マスバランスアプローチを適用すれば、植物由来原料の投入量に応じて製品の一部を100%バイオと見なせる。