JFEスチールは、車載モーターのコア(鉄心)向け純鉄粉「電磁郎」(以下、新材料)を開発した。電磁鋼板では製造が難しい小型で複雑形状の鉄心を造れる。同社は主に、電気自動車(EV)など電動車両の補機モーターへの採用を目指す。現行の電動車両で使う補機モーターは駆動用の主機モーターと同様に、鉄心には主に電磁鋼板が使われている。ただ、電動車両の補機モーターは今後、より小型化・高周波化が進む可能性が大きい。新材料は、こうした補機モーターなどの鉄心材料に向く。「アキシャルギャップ型」という新構造モーター実用化の追い風になる可能性がある。
電動車両の普及で車載モーター市場は急拡大
矢野経済研究所によると、車載モーター市場は18年に約32億個だったが、30年には約56億個に拡大するという*1。車載モーター市場の拡大によって、鉄心用の電磁鋼板は25年以降に不足する可能性がある。高性能の電磁鋼板を量産できる鉄鋼メーカーが、世界でも限られているためだ。調査会社の米S&P Global(S&Pグローバル)の自動車部門〔旧英IHS Markit(IHSマークイット)の自動車部門〕は、30年には電動車両向け電磁鋼板の不足量が、90万tを超える恐れがあると予測する*2。
JFEスチールは、電磁鋼板不足への対応を急ぐ。同社電磁鋼板セクター部主任部員の藤田明男氏は、「24年度上期(24年4~9月)に、高級無方向性電磁鋼板の生産能力を現在の2倍に増強する」と述べる。同社は「今回の新材料は電磁鋼板の不足を埋めるものではなく、新たなニーズに応えるもの」と説明するが、電磁鋼板の増産計画に加えて、今回の新材料が補機モーターの鉄心に使えるようになれば、電磁鋼板の不足を補う一助になりそうだ。