工場内の狭い通路を、製作途中のプリント配線基板(PCB)を載せた自律型無人搬送ロボット(AMR、Autonomous Mobile Robot)が走る。出発したのは2号館1階の中間検査工程、行き先は5号館2階の印刷工程─。PCBメーカーのOKIサーキットテクノロジー(OTC、山形県鶴岡市)は工場内でAMRの運用を開始、2022年6月にはエレベーターを経由して階をまたいだ自動搬送を実現した(図1)。2台のAMRが10ルートを走り、2022年8月には3台目を追加する予定だ(図2)。
ビル警備用ロボットなど、自らエレベーターに乗って移動するロボットの稼働例はしばしば見られるようになった。しかし工場内の搬送用AMRがエレベーターに乗る例は、新設の工場以外ではまだそれほど多くはない。OTCはエレベーターメーカー、AMRメーカーの両方と調整してエレベーターを改修し、AMRを導入してエレベーターに乗せる運用までを数千万円の費用で実現(図3)。1日合計47kmに及ぶ作業者の歩行をAMRが代替するようになった。
離れた場所にある次工程
OTCが得意とする多層基板は、穴開けや銅めっき、露光やエッチングを何回か実施し、その回数が基板の仕様によって異なる。従って、直線状に並んだ工程を1回通れば製品ができあがるという工場ではない*1。工場建屋の増築を重ねてきたという歴史的な事情に加え、設備は配水などの配管を伴って簡単に動かせないものも多く、配置の改善は進めているものの次工程までの距離が数十m程度になる場合が少なくない。
そのため、仕掛かり中のPCBを台車に載せて作業者が運ぶ、という風景が日常化している。さまざまな工程間の歩行距離を積み重ねると1日当たり数十kmにも及ぶ。この歩行による搬送をなくすのがAMR導入の目的だ。
AMRはオムロン製の「LD-90」を採用。上部へ20mmほど上下する昇降機構を取り付けるカスタマイズを施してあり、専用台車を下から持ち上げて運ぶ。速足の作業者と同じくらいの時速4km(OTC実測値)で走行し、90kgまでの荷を運べる。5mm(OTC実測値)までの段差、15mm(同)までの溝を越えられ、積載状態で3度(同)の坂を上れる。