「日本のものづくりのコストは高い」との思い込みが続いていないだろうか。「海外企業から見積もりを取ると、やっぱり安い」という指摘はあるかもしれない。しかし日本企業の出す見積書と、海外企業のそれは基準が大きく異なる。
日経ものづくりは2022年10月、ニュースメール配信「日経ものづくりNEWS」の読者を対象に、「円安による競争力への影響」をテーマとしたアンケートを実施し、225の回答を得た(主な結果は2022年12月号「数字で見る現場」で掲載)。そのアンケートの最後に、見積もりの出し方についての問いを入れた。「これまで取引のない海外企業から引き合いを受けて見積もりを出す際、条件(スペック)が不明確なところをどう扱うか」について聞いた(図1)。
高めに見積もりを出す慣習
この質問のネタ元は、2015年の日経クロステック(当時は日経テクノロジーオンライン)寄稿記事*1。この記事の筆者は、2001年まで東京・文京で経営した金型加工会社を自主廃業した後、2002年に米国に渡り、自動車部品サプライヤーの米NYX社で金型を含む生産設備関連の調達に携わる立場にあった。その寄稿記事の中で指摘していたのが、取引実績のない相手からの見積もり依頼に関して、日本の中小企業が共通して抱える問題点だった。
これまで取引実績がある相手の場合は、仕様がはっきりしないところを実績から推定できるし、担当者が答えてくれそうかどうかも分かる。初めての相手ではそうはいかず、分からないところが残りがち。そこを「日本のサプライヤーのほとんどは、品質を上げる方向に仮定してしまう」(同記事)。
しかし、「日本以外はほぼどこの国のサプライヤーも価格が下がる方向に仮定する。その仮定の違いを依頼者が詳しく見ることはまずないため、単に『日本は高い』という評価で終わってしまう」(同)。
この指摘がどの程度本当なのか、数値化できる機会だと考えてアンケートに質問を入れた。結果は、まさに寄稿記事が指摘した通りといえるもの。残念ながら、競争上で不利になる選択肢ほど回答数が多かった。