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 熱エネルギー(温度差)を音波に変換したり、音波を熱エネルギーに変換したりする─。そんな「熱音響現象」によって工場の排熱を活用する「熱音響冷却システム」を、中央精機(愛知県安城市)が東海大学との共同研究を基に開発。実用化にめどをつけた(図1)。

図1 熱音響冷却システムのイメージ
図1 熱音響冷却システムのイメージ
工場の排熱を活用し、熱エネルギー(温度差)を音波に変換して冷熱を出力する。(出所:中央精機)
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 熱音響現象を利用した冷却システムの開発自体は、日本国内の企業や大学でも進められており、局所的に低温にする実証実験に成功した実例はある。しかし、「十分な冷熱を取り出して冷房などに利用できるようにしたのは、恐らく日本で初めて」(中央精機技術部部長の深谷典之氏)と言う*1

*1 例えばオランダSOUND ENERGYは、熱音響冷却システム「THEAC-25」を開発している。同社Webサイトによると、排熱から25k~40kWの冷熱を出力できるという。

 日経ものづくりは2022年10月12日、同社工場を取材。取材班は、熱音響冷却システムのデモ機を使った冷房装置を体感してきた。実際に工場内の気温が29℃の時、デモ機によって冷房されたブース内は11℃。ブース内の温度を18℃下げることに成功していた。

工場排熱を活用して冷却熱を取り出す

 熱音響冷却システムは、 熱エネルギーを音エネルギーに変換し、発生した音波を熱エネルギーに再変換して冷却するものだ。

 中央精機が採用したループ管による熱音響冷却システムの構造はシンプルだ(図2)。熱を音波に変換し、音波を熱に変換する「コア」を2つ備えており、音波を伝えるパイプでその2つのコアをつないでいる。コアの一方は、工場排熱などを音波に変換する「原動機コア」、もう一方は音波を受け取って熱に再変換し、冷熱を出力する「冷却機コア」だ*2。コアやパイプの中はヘリウム(He)ガスで満たされている。

図2 ループ管による熱音響冷却システムの構造イメージ
図2 ループ管による熱音響冷却システムの構造イメージ
(出所:東海大学)
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*2 両端を閉じた直線の管にコアを取り付けるタイプもある。コアを「スタック」と呼ぶ場合もある。

 コアはいずれも、蓄熱器と熱交換器、テーパー管から成る。蓄熱器はステンレスの金網を積層したもので、網目が重なり合って直径0.1mm程度の細かい流路(穴)が空いた状態になっている。この蓄熱器を2つのフィンチューブ型熱交換器で挟み、テーパー管の中に格納する。2つの熱交換器はそれぞれ高温側、低温側になる。

 原動機コアは、温度勾配があると音波が生じる、もしくは音波を増幅させる「熱音響自励振動」という現象を利用したものだ。原動機コアの高温熱交換器には熱媒油(工場排熱で温めた油)、低温側(常温熱交換器)には常温水(工場内で使用している水道水)を循環させると、蓄熱器内に温度の勾配が生じる*3。するとHeガスが、低温側から高温側にわずかにでも移動すると膨張、逆に高温側から低温側に移動すると収縮する。この膨張と圧縮という熱力学サイクルが繰り返され、その結果、振動(音)が増幅されて大きな音が発生し、蓄熱器で音エネルギーが増幅される。熱エネルギーが音エネルギーに変換されたわけだ。

*3 今回は工場内で使用される工場内用水を使用。季節によって変動するが、取材時は25~26℃程度。

 発生した音波は、パイプ内のHeガスを伝搬して、もう一方の冷却機コアに到達する。冷却機コアでは、原動機コアとは逆の現象が起こる。つまり、音波(圧力差)によって蓄熱器の狭い流路内のHeガスが膨張と圧縮を繰り返して、徐々に蓄熱器内に温度勾配が生じる。この際、高温側の熱交換器に常温水を循環させれば、低温側では常温水の水温よりも温度が下がる。従って、低温熱交換器に循環させた不凍液から冷熱を取り出せる。