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 3D設計は、生産準備以降の工程の負荷を減らし、製品開発設計の全体最適によってリードタイム短縮を図る切り札である、というのが1990年代の触れ込みだった。しかし現実には、3D設計がかなり普及した現在になっても、リードタイムが本当に短縮できたのかは定かではない。

 リードタイム短縮の根拠は、フロントローディング(検討の前倒し)が可能になること。2D図面は情報量に限界があり、試作品などの現実世界の物体にしてみないと分からないことが多かったが、3Dデータならば現実の物体を得る前に問題点が分かり、先に手を打てる─とされていた。そのターゲットの中心が金型の設計製作であり、3Dデータを使えば圧倒的に金型の設計製作は楽になるはずだった。

 アルプスアルパインは、そのフロントローディングをいまひとつ遂行しきれない実態に問題意識を持って切り込んだ(図1)。リードタイム短縮効果が思ったほど得られないのはなぜかを突き詰め、製品(部品)設計部門と金型設計部門、金型生産現場、製品生産現場などの部門間、さらには協力金型メーカーとのコミュニケーションを強化する「DMCシステム」を導入。新型コロナウイルス感染症の問題が起こる前から、現在の在宅ワークで使われるコラボレーションツールのようなシステムによって、フロントローディングを現実に機能させる体制を整えてきた。

図1 アルプスアルパインの製品設計現場
図1 アルプスアルパインの製品設計現場
金型設計部門をはじめ、他部署とのコミュニケーションをシステムによって強化した。(写真:アルプスアルパイン)
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困難な部門間コミュニケーション

 特に射出成形で造るプラスチック部品について、リードタイム短縮を妨げる要因としてアルプスアルパインが着目したのが、「出図直前に金型設計部門などから受ける指摘の多さ」(アルプスアルパイン機構技術部係長の佐野 力氏)だった。金型での成形要件の不足、つまり金型でうまく成形できない点の指摘であり、出図前に修正しておかなければならない。その問題点の認識が遅れるため出図も遅れ、リードタイムを思うようには短縮できなかった。

 成形要件についての指摘を減らすには、最初から成形要件に適合する製品や部品の設計にしておけばよい。ところが、製品設計者は製品機能を実現する技術の専門家であって、効率的に生産する技術の専門家ではない。その製品設計者に金型での成形要件について伝えるには、結局は実際の3Dデータに対して実地で指摘するしかない。

 成形要件について指摘する側である金型設計者にとっては、その指摘に大変な労力を要する。製品設計者に情報を伝える前に、3Dデータをチェックして問題点を1つひとつ把握する作業に時間がかかる。

 さらに金型設計者の人数よりも、製品設計者の人数のほうがずっと多いため、金型設計者から見ると、複数の製品設計者に対して同じような指摘を繰り返さなければならない。製品設計者の誰かに伝えた内容が製品設計部門にぱっと広がるならばよいが、実際にはそうはならない。

 実はアルプスアルパインはかねて、製品設計の3Dデータを前もって金型設計者にチェックしてもらう取り組みを進めていた。出図直前の生産要件レビュー(検討会)よりも前に、早めに問題を解決しようと努力していた。にもかかわらずリードタイム短縮効果を引き出しきれないのは、部門間コミュニケーションの大変さに原因があると認識した同社は、そのテコ入れを決めた。