「サントリー天然水」のペットボトルのキャップ上面には、ちょっとした「秘密」がある。長野県と新潟県、北陸・東海エリアで販売されている製品に限り、各ボトルのキャップに固有のシリアル番号が不可視インクで印刷されているのだ。
同エリアで販売されているペットボトルのサントリー天然水は通常、「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」(長野県大町市、以下、信濃の森工場)で製造されたもの(図1、2)。シリアル番号は、同工場での品質管理のためのトレーサビリティーシステムに使われている。
どのボトルにいつ・どの設備で天然水を充填し、ラベルを貼り、倉庫のどのパレットに納めたのか、1本1本のボトルの履歴を追っているのだ。例えば、天然水を充填する設備が正常に動作しなかったと分かれば、既に後工程に流れてしまっていても、その設備で充填されたボトルをすぐに特定できる。これまで不具合発生時に製造した個体を特定するのに要していた工数と時間の大幅な短縮が可能となった。逆に、ボトルにラベルが正常に貼られていないと分かれば、10台以上ある包装機のどれで、いつ貼られたラベルなのかもすぐに特定できる。「見えないシリアル番号」は、そんな工場の合理化を図るシステムの要なのだ。
不具合発生時には次のような対応を取る。[1]生産ライン(1ライン)を止めて不具合の発生箇所を調査。不具合の原因を解消して生産ラインを復旧させる。[2]不具合のある製品が倉庫のどのパレット・ケースに入っているかを特定。[3]不具合がある個体と、その前後で充填したり、ラベルを貼ったりした個体を取り出して再検査する、といった処理を行う。
トレーサビリティーシステムの導入によって、これら3過程の工数・時間を短縮できるようになった。目に見えないシリアル番号が、効率的な品質管理を実現する鍵となっている。
1本1本のボトルの製造履歴を記録
信濃の森工場は、サントリーグループの清涼飲料水の製造会社であるサントリープロダクツ(東京・港)の工場だ。2021年5月に稼働を開始。2023年1月時点で、容量550mlと2Lの2品目のサントリー天然水を製造している。生産能力は年間1500万ケース。2L入りのペットボトルなら 360本/分、550ml入りなら1000本/分で充填できる設備を擁する*1。サントリーグループの飲料工場では最もデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだ先進工場である*2。IoT(Internet of Things)などを駆使したDXを前提として建設された。センサーで収集した設備のデータをクラウド上に保存。工場内に設置したダッシュボードで稼働状況などを見える化したり、チャットボットで蓄積したノウハウを共有できるようにしたりして、作業の効率化や生産性の向上を図っている(図3)。
そんな同工場のDXの代表格とも言えるのがトレーサビリティーシステムの導入だ。
先述した通り、信濃の森工場で製造しているボトル飲料のキャップ上面には、1本ずつ固有のシリアル番号を不可視インクで印刷している。天然水の充填やラベル貼り、検品、梱包などの過程で各要所に設置したカメラによって、このシリアル番号を読み取っている。
「カメラは一般的な産業用のハイスピードタイプのカメラ。読み取り速度は550mlサイズで1分間に1000本。不可視インクで印字したシリアル番号を撮影した画像データを蓄積している(可視化する方法など詳細は非公開)」(飲料・食品事業を担うサントリー食品インターナショナル)。ある1本のボトルがどの設備でラベルを貼られたか、いつ通過したかといった製造履歴と充填量などの品質情報をひも付けて、信濃の森工場に導入したIoTプラットフォームで統合管理している。