「技術がなければ試験飛行はできなかった。技術を事業にするための十分な準備、知見が足りなかった」─。三菱重工業は2023年2月、国産の小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発中止を発表。記者会見で同社社長兼CEO(最高経営責任者)の泉澤清次氏は、冒頭のように述べた。
2008年に始まった国産旅客機の事業化の夢はついえた。同社が事業化に当たり大きな壁だったとするのが、機体を量産するために不可欠な型式証明(TC)*1の取得だ。最後の会見で泉澤氏は、報道陣の問いに対し以下のように答えた。
1兆円規模の費用を開発に投じたとも言われている。産業史に残る大失敗だと思う。この失敗で三菱重工業が学んだものは何か。
泉澤氏:平たく言えば「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということだと思う。入るべきマーケット、参入しようとしている事業をもっと勉強した上で入っていくべきだった。当たり前のことだが、これが欠けていたと改めて思う。
この失敗を招いた原因は、日本の航空機産業の技術力不足か、それとも三菱重工業の技術力不足か。
泉澤氏:どちらでもない。事業に入っていくための準備が足りなかった。我々に技術がなければ(3900時間を超える)試験飛行ができなかったと思う。これは私の個人的な意見だが、技術を事業にするところで十分な準備、そして知見が足りなかったのではないか。
スペースジェットに限らない話として聞いてほしい。私は開発が遅れるということが、プロジェクトの成立性を非常に低くし、事業性を損なうと思っている。従って、そこに手を打ち、リカバリー策を講じていくことが必要だ。40年以上三菱重工業で働いてきて、いろいろな関わり方をしながらさまざまなプロジェクトを見てきたが、開発をきちっとやることがすごく大切なことの1つだと私は思う。