鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は、鉄道車両などの振動を監視して不具合の予兆を把握するシステムについて最新の研究成果を「鉄道総研技術フォーラム2018」(東京開催2018年9月6・7日、大阪開催同9月12日)で公表した。長期間バッテリーを交換せずに動作させるために、振動発電を併用した仕組みを東芝と共同で開発。さらに、機械学習の考え方を採用して、広く浅く“いつもと違う"振動を検出する「状態監視システム」の研究では、営業車両での実験で有効性を実証した。
振動発電でほぼ自律動作
振動発電を適用した「台車状態監視モジュール」は、台車に生じる振動を監視するもので、台車と車体の間に配線を設けることなく車上の装置に情報を集められる。台車側の装置は、振動発電モジュールの電力でほぼ自律動作する。東芝は鉄道総研技術フォーラムの会場で、サブシステムである振動発電モジュールの試作品を出展した(図1)。
試作したシステムでは、軸箱内部にある軸受の状況を監視対象とした。台車の枠には監視モジュール子機と振動発電モジュール、軸箱に加速度センサーと温度センサーを取り付ける(図2)。加速度センサーからの上下加速度のデータを5分おきに監視モジュールで判定し、その結果を無線で車上装置(監視モジュール親機)に伝える*1。
電力節約のため、加速度データをFFT(高速フーリエ変換)で処理するのを5分に1回とした。実用上は「もっと間隔が空いてもおおむね問題ない」(鉄道総研)という。FFTの結果は、その時の速度と照らし合わせて、特定の周波数成分の大きさで異常を判定する。軸受の転動体に傷がついた場合、例えば90km/時で走行すると75Hzの振動が生じるため、75Hzとその倍数の成分の大きさを見る。無線での伝送にも比較的大きな電力が必要なため、振動データではなくOK/NGの判定結果を送る。
これらの処理を賄う電力は、東芝の振動発電モジュールから得て、電気2重層キャパシターに蓄えた上で監視モジュール子機などに供給する。実際には1次電池も搭載するが、実験では1次電池の電力を使ったのは起動時と5分後のFFT処理のときだけで、それ以降は振動発電の電力だけでカバーできた。「1次電池交換の頻度を延ばして、例えば4年に一度で済むようにできる」(鉄道総研)と期待する。
振動発電モジュールは「従来の2倍の発電量を持つ」(東芝)。振動発電機は内部の振動子が上下に動き、固定子との間の電磁誘導によって発電する仕組み(図3)。この振動発電機に整流変圧回路を組み合わせて振動発電モジュールを構成した上で、整流変圧回路を振動発電機から見たときの抵抗を任意に調整可能とした。抵抗を変えると振動発電機の挙動が変わり、発電量も変化する。鉄道総研の実験線で得た車両走行時の振動に合わせて抵抗を最適にして、発電電力を増やした。