三菱重工業と国際廃炉研究機構(IRID)が、福島第一原子力発電所の廃炉作業に向けて開発を進めているロボットアームを公開した(図1)。原子炉内で溶けた燃料デブリを取り出すためのもので、アーム先端は2000kgまでの荷重に耐えられる。2021年度の稼働を目指す。
両者は2019年4月24日、このロボットを炉内に案内する手法を確立したとして、三菱重工業の神戸造船所(神戸市)でプロトタイプによるデモンストレーションを実演した。
ロボットは油圧駆動で6個の関節を持つ。内訳は左右1軸、上下3軸、回転2軸だ。大きさは幅0.7×高さ0.92×長さ7.1mで、質量は約4t。アーム先端に工具を取り付けて、デブリを切り出したりつかんだりする。
「はしご車」のはしごのように3段式で伸びる「アクセスレール」にロボットを載せて炉内に運ぶ。狭い開口部に通すためだ。アクセスレールは幅1.9×高さ2.5m。長さは8.7~17mで伸縮する。質量は約24t。
大まかな動作は次の通り。まず、圧力容器を支えるコンクリート製の構造物「ぺデスタル」の開口部に向けて、レールを傾ける。レールをゆっくりと伸ばしていき、開口部から内部に挿入。レールの荷重を開口部に預ける。レールを傾けるのに20分、伸ばし切るのに20分、合計40分かけて最下部に到達する。アームを伸ばし切ったら、金属ワイヤーで引っ張って荷重を支えつつ、台車に載せたロボットをレールに沿って滑らせて降ろしていく(図2)。
「3段のうち先端のレールほど幅が細い。ロボットを載せた台車がレールのつなぎ目をスムーズに乗り継ぐ機構を工夫した」。三菱重工業原子力事業部主席技師の河西賢一氏は、技術的なポイントについてこう話す。
遠隔操作でデブリを回収
燃料デブリが溜まっているペデスタルの内部は、暗くて狭い。そこで、アームの先端に照明とカメラを取り付けた。作業員はその映像を見ながらロボットを遠隔操作し、デブリの回収に当たる。アーム先端の動作速度は秒速3cmほどで、自動制御も可能。繰り返し位置決め精度は±5mmという。
デブリを取り出す際は、回転するカッターでデブリを切り出した後、2本指のハンド機構を持った別の工具に切り替えてデブリを拾い上げる。アーム先端の工具を使い分けなくてはならないため、工具を容易に交換できる機構を設けている。
拾い上げたデブリはステンレス製の「ユニット缶」に収納する(図3)。ユニット缶は直径20×高さ20cmの円筒形で、15kgほどのデブリが入る。レール内部には、ロボット台車の通り道の他に、ユニット缶を運ぶ搬送台車の通り道が設けてある。この搬送台車がレール内部を往復してデブリを外部に運び出す。往復頻度は1日に20回ほどを想定する。
ロボットは1MGy(メガグレイ)*までの放射線量に耐えられるように設計した。ただし、カメラなど放射線の影響を受けやすい部品は、高頻度で取り換えるという。
* Gy(グレイ) 物体が放射線から受ける単位質量当たりのエネルギー量。1Gyは1J/kg。