新型コロナウイルスの「職場内クラスター(感染者集団)」の発生を危惧する声が高まっている。報道によれば2020年6月に、東京都内のある人材派遣会社で少なくとも16人が感染したという。職場における感染拡大を防ぐヒントとなるのが、スーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を使って進む新型コロナ対策の研究だ。
理化学研究所チームリーダーで神戸大学教授の坪倉誠氏は2020年4月末から「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」の研究を始め、6月17日に新たな研究成果を公開した。富岳を使った結果、従来の飛沫シミュレーションと比較して数百〜1000倍の計算資源を確保でき、短期間で成果を出せた。「まさに富岳の威力」(坪倉氏)という。
「大きい飛沫」と「小さい飛沫」
同研究ではくしゃみやせき、会話などで生じる飛沫がオフィス内でどう漂うのか、飛散シミュレーションを実施した。坪倉氏はオフィスの新型コロナ対策について、「大きい飛沫」と「小さい飛沫」の違いの理解と、それぞれ適切な対策が必要と提言する。
大きい飛沫は5μm以上、小さい飛沫は5μm未満の大きさを指す。会話やせき、くしゃみでは両方が口から飛び出す。大きい飛沫は机や地面に落ちやすく、小さい飛沫は空気中を長時間漂いやすい特徴がある*。
大きい飛沫の拡散防止に有効な対策はマスク着用に加え、パーテーション(間仕切り)の設置と座席の千鳥配置(人が正対しないように互い違いに座る)だ。シミュレーションによれば、大きい飛沫は正面に2m程度飛ぶ一方、横には広がらないと分かった。
だが、注意点もある。間仕切りの高さだ。シミュレーションでは、間仕切りが座る人の頭の高さ(高さ140cm)だと正面への飛沫到達量を10分の1以下に抑えられたが、口より少し高い程度(高さ120cm)では効果が限定的だった(図1)。間仕切りを設置する際は、座る人の頭まで高さを確保すると効果的だ。
千鳥配置でも、机に残る飛沫には注意が必要だ。湿度が高いほど机に落ちる大きい飛沫の割合は増えるため、机を介しての接触感染リスクがより高まるという(図2)。梅雨や夏は特に「机のこまめな掃除が大事だ」(坪倉氏)。