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 デンソーによれば「リコール対策については、現在、OEM(自動車メーカー)と共に進めている。他の自動車メーカーへの影響については当社からは言えない」という。ただし、このホンダ車への賠償金(リコール対策費用)については、2019年度(2020年3月期)決算で計上した2200億円に引き当てられており、「追加費用は発生していない」(デンソー)。

 2020年7月31日に発表した2020年度第1四半期(4~6月)の決算発表で、「新型コロナウイルスの影響は第一四半期で底を打った」と語ったデンソー。しかし、この新型コロナ問題に欠陥燃料ポンプのリコール問題が重なり、「社内は大騒ぎになっているはずだ」と同社出身の技術者(以下、OB)は言う。

 というのは、同社の現場は今、厳しい予算削減に直面しているからだ。この事態を受けて、デンソーは不要不急の設備投資を見直すだけではなく、これまでは子会社を含む外部企業に依頼していた次期型製品や類似製品の設計開発業務の発注も凍結。その分、デンソーの開発設計部門の負担は増しているとみられる。

* 次期型製品は既存の機能や性能の向上、小型化、コスト削減を進める製品。類似製品とは車種展開などのために小変更を施す製品のこと。いずれも新規性が低い。

 同OBは「外部への開発設計業務の発注を止めたら、デンソー社内だけではとても業務は回らない。事業部の統廃合や技術者の異動はもちろん、製品開発を精査し、量産が決まった製品は開発を続ける一方で、開発の先送りや中止案件も出てくるだろう」と指摘する。

判断とメカニズム解明の遅さの代償

 デンソーの市場クレーム分析を実施する判断にスピード感が欠けていたのは明らかだ。その傍証となるのが、欠陥低圧燃料ポンプについて市場から上がってきた不具合件数の多さだ。国内市場だけでホンダ車(シビック)では64件、トヨタ車に至っては555件もの不具合件数が計上されている。同社出身の元開発設計者で品質保証に詳しい専門家は、「市場クレーム分析を早く行っていれば、不具合件数がここまで増えることはない」と指摘する。

 デンソーは2020年6月19日に開いた株主総会で、同社副社長の山中康司氏が「品質不良メカニズムは非常に複雑で解明に時間を要した」と語った。同社出身の元開発設計者は「この品質不良(PPS製部品による膨潤)は過去にも経験している。今のデンソーにおいて過去トラ(過去のトラブル)を十分に生かし切れていない証拠だ」と分析する。設計ノウハウの伝承の失敗により、デンソーは市場クレーム分析のうち、品質不良メカニズムの検証と判断、そして対策において時間を浪費した可能性がある。

 この判断の遅れと伝承の失敗でデンソーが負うことになった代償が、世界で500万台近くの大規模リコールというわけだ。デンソーの欠陥燃料ポンプは、市場クレームがあった場合に迅速な対応を怠るとこうなるという、悪しき事例の1つになってしまった。