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日経クロステックは2020年10月12日〜23日の会期で「日経クロステックEXPO 2020」をオンライン開催した。全250セッションの中からものづくり関連の2社、アイリスオーヤマ 代表取締役社長の大山晃弘氏とAGC 常務執行役員 技術本部長の倉田英之氏の講演内容を紹介する。(編集部)

地産地消はブランド力向上に効果
アイリスオーヤマ 代表取締役社長 大山晃弘 氏

大山晃弘 氏

 コロナ禍でさまざまな企業の苦境が伝えられる中、「過去最高の伸び」(大山社長)を記録したアイリスオーヤマ(仙台市)。グループ全体の2020年度売り上げは前年度比140%増、過去最高の7000億円到達を見込む好調ぶりだ。

 巣ごもり需要で自社EC(電子商取引)サイトを中心とした製品販売が好調な上、何より使い捨てマスク(以下、マスク)の製造販売が当たった。深刻な供給不足に迅速に対応。マスクの供給が最もひっ迫していた3月に製造を国内回帰させると発表。5月には設備を導入、7月に国内工場からの出荷を始めた(図1)。

図1 アイリスオーヤマのマスク生産工場
図1 アイリスオーヤマのマスク生産工場
国内工場内の様子。設備は中国の設備メーカーから導入した。同社が培ってきた自動化の技術が注ぎ込まれている。(出所:アイリスオーヤマ)
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「地産地消」に3つのメリット

 マスク本体だけでなく不織布などマスクの材料についても国内工場で自社生産を始める。米国やフランス、韓国でもマスクを現地で生産する計画を公表(図2)。10月末から11月始めには現地生産を始めるメドが立ったと話した。小型家電なども現地の工場で商圏に直結した「地産地消」体制を構築し始めている。

図2 アイリスオーヤマ フランス工場
図2 アイリスオーヤマ フランス工場
2020年11月にはフランスのほか米国と韓国でもマスクの現地生産を始めると発表した。(出所:アイリスオーヤマ)
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 今回のコロナ禍でマスクが深刻な供給不足に陥った背景には各国間の流通の停滞に加え、中国政府の輸出規制の強化によるサプライチェーンの混乱がある。アイリスオーヤマは早い段階でこの状況が当面は続くと判断。いち早くマスク生産の国内回帰を決めた。こうした決断の早さと、自動化が進み、比較的技術移転が容易な生産体制、サプライチェーンを柔軟に組み替えられる体制がアイリスオーヤマの強みだと大山社長は胸を張る。

 地産地消体制の構築を急ぐ理由について大山社長は3つの理由を挙げる。第1に安定供給。今回のコロナ禍のように事故や事件でサプライチェーンが混乱しても現地生産なら耐性がある。第2が製造コスト。同社が主力工場を構える中国は人件費が上昇傾向にあり、物流コストも同様に年々上がって来ている。トータルで見ると、もはや「現地生産は製造コストが高い」と言えなくなってきているという。

 第3の理由として強調したのがマーケティング的な意味合いだ。「ユーザーは現地生産された商品にプレミアム感を抱く」という。マスク製造の準備を始めた米国、フランス、韓国でも、「商談をすると現地小売店の食いつきが違う」(大山社長)。現地生産を理由に価格を高めに設定できれば、コストが多少かさんでも相殺できる。

自動化進め、生産移転を容易に

 同社の主力工場である中国・大連市の工場群は生産立ち上げを自ら行い、自動化に約30年前から取り組んできた。得られる品質の安定化を重視したからだ。結果として自動化が進んだ設備は技術移転が容易になった。これがわずか半年でマスク製造を国内回帰できたスピード展開に結びついている。

 現在は、画像センサーを用いた不良品検査などに人工知能技術を積極的に適用しているほか、現地と本社をインターネットでつなぎ、グローバルな生産管理体制の構築を進める。既に、海外に工場を造り、運営するために派遣する人員が半減するなどの成果が出ている。

 いずれは日本から人員を派遣するのは立ち上げ時だけにして、ロボットのティーチングや自動化設備の管理は日本で、オペレーションは現地の技術者が行う“一極管理の実現"を目指す。新規工場を立ち上げるときの技術指導にはかなりの労力を要するが、デジタル技術の導入でそのコストは削減可能とする。