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 無人で走る「レベル4」の自動運転開発のトップランナー、米Waymo(ウェイモ、Googleの親会社であるAlphabet傘下)。本格的な商用化が目前との見方が強まる(図1)。

図1 米アリゾナ州チャンドラーにあるWaymoの自動運転車の待機場所
図1 米アリゾナ州チャンドラーにあるWaymoの自動運転車の待機場所
(出所:Waymo)
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 安全に関する最新の報告書や論文を読み解くと、これまで自動車業界と距離を置いて独自に自動運転システムを開発してきた同社が、業界に寄り添う「現実路線」にかじを切る姿が浮かぶ*1。同社は自動運転の走行距離で群を抜き、事故率は低い上、事故の実態を堂々かつ赤裸々に公表する。国内自動車メーカーとの実力差は広がる一方だ。

*1 報告書は「安全への方法論と準備の決定(Waymo’s Safety Methodologies and Safety Readiness Determinations)」(https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/2011/2011.00054.pdf)。

自動運転の前提条件を現実的に

 Waymoは2020年10月に発表した安全に関する報告書で、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)をとりわけ重視した安全基準を打ち出した*2。自動運転システム開発のティアフォー(名古屋市)創業者で東京大学准教授の加藤真平氏は、この点が2年前の報告書と大きく異なると読み解く。

*2 自動運転の商用化で技術や事業モデルなどと同じくらいに重要なのが、安全基準である。どうすれば「安全な自動運転車」と見てもらえるのか、事故が起こったときに自らの責任がないことをどう示すのか、各国・地域で議論が進む。

 ODDとは安全に走れる条件のことで、具体的には走行範囲や天候、速度などである。ODDの条件下だけで自動運転させ、条件を外れるときは自動運転で走らせない。どちらかといえば自動車業界から生まれた発想で、自動運転のハードルを少しでも下げたい考えが根底にある。

 WaymoはかねてODDの考えを実施していたものの、それこそ米国全体に及ぶ広範囲のODDを想定しているかに思えた。それが最新の報告書では「配車ビジネスなどで必要な都市単位のODDに限定している印象で、技術のハードルを下げてきた」(加藤氏)のだ。どこでも走れる理想の技術を追いかける姿勢から、本格的な商用サービスを早期に始められる現実路線への転換と見る(図2*3

図2 Waymoは無人運転の配車サービスを実用化している
図2 Waymoは無人運転の配車サービスを実用化している
(出所:Waymo)
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*3 ここまでこぎ着けるのにはかなりの時間をかけた。2009年に自動運転プロジェクトを始めて11年たっている。IT企業の通常のスピード感を考えると、驚くほどに地道でこつこつと進めてきた印象だ。