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品質という優位性が失われつつある―。製造業の現状に危機感を抱く経営者らの声を受けて、日本科学技術連盟(日科技連)が2017年に立ち上げた「品質経営懇話会」。発足以来、日本の「品質」と「経営」について議論を重ね、20年6月にその内容をまとめた「品質経営懇話会 第1次報告書」を公開している。同会委員長で日科技連元会長の坂根正弘氏に、日本の製造業における品質と経営の課題と処方箋について聞いた。(聞き手は吉田 勝、岩野 恵、構成は小林由美=fecet代表)

 「日本(製造業)は現場力を失った」と言う人が世の中にはたくさんいます。そういった指摘に該当する企業があるとすれば、それは、現場の責任ではありません。痛みを伴う経営改革を断行して収益性を高める、必要な投資を継続的に行うといった手を打ってこなかった経営者の責任ではないでしょうか。ですから、品質経営懇話会でも個別の品質の話ではなく、企業価値をどう考えるべきか、そのための顧客の価値創造や顧客からの信頼度の向上について議論しています。

雇用問題に目を背けない

坂根正弘氏
坂根正弘氏
品質経営懇話会委員長
さかね・まさひろ:1963 年にコマツに入社。89年に同社取締役、90年に小松ドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ)社長に就任。2001年にコマツ代表取締役社長就任。07年に取締役会長、13年に相談役、19年から顧問。国家戦略特別区域諮問会議議員を務め、これまで総合資源エネルギー調査会会長、まち・ひと・しごと創生会議構成員などを歴任した。 (写真:加藤 康)
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 私は日本の多くの製造業が国内投資に自信を失った根本原因は雇用問題にあったと考えています。かつてコマツが初の赤字になるほど収益が悪化したのは、事業を多角化したり、雇用の流動性がない社会で自前主義の仕事やITシステムを作りあげ、肥大化した固定費に押しつぶされたりしてきた点に原因があります。私が2001年にコマツの社長になった際の経営構造改革の出発点は、それを変えることにありました。

 製造コストも、欧米のように現場コストを仕事量に応じて変動費化すれば高い競争力を持てるのに、変動コストを外注・下請け化に求めてきた点も問題でした。外注・下請け先も決して雇用の調整は簡単ではなく、結局、中間の固定費を積み上げることになりました。

 しかし、多重下請け構造でも、仮に現場コストを変動費化できれば、国際競争力を十分有していると確信し、事業の選択と集中、そして固定費の削減を徹底し、国内投資を拡大する決心をしたわけです。

 その後、日本も非正規社員制度といった変動費化の方策が一般化しました。01年当時、コマツで国内全社員に希望退職を募るといった大変な痛みを経験してきた自分の経験から、この制度をもっと前向きに捉えて手厚くし、多くの企業が日本のコスト競争力に自信を持って国内投資に結びつけることが、現場力の向上につながると期待しています。

 将来目指すべき事業と対象市場の選択と集中を徹底し、これまでのハード(商品)中心のビジネスモデルを、商品からサービス、ソリューションへと進化させ、消耗戦化している国内競争の土俵とルールの変革に挑戦し、新しいビジネスを世界市場に拡大していくべきです。