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 2021年10月11~22日の日程でオンラインイベント「日経クロステック EXPO 2021」(主催:日経BP)が開催された。基調講演のパネルディスカッション「製造業はDXで何を変えるべきか -カーボンニュートラル時代の生き残り戦略-」では、日本におけるカーボンニュートラルと製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)の役割について、それぞれ異なる立場でDXに携わる3人が議論した。

 登壇したのは、東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンターのチーフエバンジェリストである福本 勲氏、フロンティアワン(東京・渋谷)代表取締役の鍋野敬一郎氏、電通国際情報サービス(iSiD) 執行役員 X(クロス)イノベーション本部長の幸坂知樹氏。モデレーターは本誌「日経ものづくり」編集長の吉田 勝が務めた。

デジタルなしでは脱炭素のデータ収集ならず

 20年秋の菅前首相の宣言により、製造業においても“待ったなし"となったカーボンニュートラル。DXで何ができるのか─。幸坂氏は、カーボンニュートラルに向けた企業の取り組みは、大きく「二酸化炭素(CO2)排出量コントロール」と「競争優位性の構築および新規事業創出」にあるとした上で、「自社だけでなくサプライヤーまで含めたCO2コントロールや、製品の電動化などに取り組む必要がある」と語った(図1)。

図1 カーボンニュートラルに向けた取り組み
図1 カーボンニュートラルに向けた取り組み
(出所:資料は幸坂知樹、写真は日経クロステック)
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 そのためには、CO2排出量の情報も基幹システムでの管理対象にすべきで、「例えば、企業グループ全体でのカーボンフットプリントの数値(CO2e)把握や、各国および各自治体単位での規制対応・報告を支援する仕組みを整備しなくてはならない」(同氏)。その実現にはデジタル技術が不可欠であり、「カーボンニュートラルは、DXやスマートファクトリー化を進める素晴らしいチャンス」(同氏)との認識を示した。

 鍋野氏は、現場レベルの観点からDXの必要性について「目に見えないCO2の見える化は実は難しい。電力の購買情報を集めるだけでは分からない」と語った。工場の各工程で使う電力が非化石燃料由来かどうかは購買情報では証明できず、生産プロセスを細分化して証明しなくてはならないからだ。生産実績や設備稼働率を収集し、分かりやすく見える化した上で、製品1つ当たりのCO2排出量を算出する必要があるが、「相当大変な作業で、Excelに数値を手入力するようなやり方では到底無理」(同氏)。

 そこで、必要なのがDXやスマートファクトリーというわけだ。現場の作業進捗などやエネルギー消費量のデータを自動収集する仕組みを整えることで、再生可能エネルギーの利用やカーボンニュートラルへの取り組みも大きく進展するとみている(図2)。

図2 上位システムと現場のデータの連携
図2 上位システムと現場のデータの連携
ERPやMESのデータで現場のデータを連携させて生産工程におけるCO2排出量を細かく把握する。(出所:資料は鍋野敬一郎、写真は日経クロステック)
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