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 リチウム(Li)イオン2次電池(LIB)の発火事故が後を絶たない中、燃えないLIBの開発に挑むのが、エリーパワー(東京・品川)だ(図1)。同社は2006年設立の定置用大型LIB専業メーカー。高い安全性を売りにしている同社のLIBは、くぎを刺しても、押し潰しても、過充電しても、発火しないという。

図1 川崎市にあるエリーパワーの大型リチウムイオン2次電池製造工場
図1 川崎市にあるエリーパワーの大型リチウムイオン2次電池製造工場
(出所:日経ものづくり)
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 同社の定置用大型LIB「HYバッテリー」は、正極材にオリビン構造のリン酸鉄リチウム(LFP)を使う。LFPは、スマートフォン向けに広く普及しているコバルト酸リチウムを使うLCO系や、電気自動車に使われているニッケル-マンガン-コバルト(NMC)系の正極材と比べて、動作電圧やエネルギー密度が低い。同社のLIBセルは公称電圧3.2V(NMC系は3.7~3.8V)、質量エネルギー密度は125Wh/kgとNMC系の半分程度にとどまる。

 一方、LFPは充放電を繰り返しても電池容量が低下しにくい寿命の長さと、高い安全性が特徴だ。同社のLIBは1万7000回の繰り返し充放電後も、放電容量維持率70%を誇る(図2)。これは、家庭用の蓄電池としての利用を想定すると、20年以上の寿命が見込めるという。

図2 繰り返し充放電(サイクル特性)の試験結果
図2 繰り返し充放電(サイクル特性)の試験結果
試験に使用した電池セルの型式は「PD50S06」。室温25℃、充放電電流48.5A(1C)、1日3サイクルの満充放電(DOD:放電深度=100%)という条件で試験した。1万7000回の充放電後も、放電容量維持率(電池セル単体における容量の定格容量に対する割合)は70%を維持した。(出所:エリーパワーの資料を基に日経ものづくりが作成)
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 安全性では、ドイツTUV Rheinland(テュフ ラインランド)が策定した安全検査に合格。大型LIBとして世界で初めて「TUV-S」マークを取得した。満充電のLIBにくぎを刺して強制的に内部短絡(ショート)させる試験や、24時間連続で過充電状態に保つ試験でも発煙・発火が認められなかった。