影響が長引く新型コロナウイルスや、ウクライナ危機などの地政学リスクが製造業従事者の価値観を変えている。キャディ(東京・台東)が2022年8月下旬に実施した調査からは、長年、多くのメーカーが心血を注いできた原価低減の優先度が下がっていると分かった。一方で、部材不足などを背景に、安定供給に直結する生産能力の強化や在庫の確保が重視されるようになっている。
同社は地政学リスクや社会情勢の変化がサプライチェーンに与える影響などを調査した*1。それによると、2022年の地政学リスクや社会情勢の変化が自社のサプライチェーンに影響したと回答した人は全体の67%。部長・工場長以上に絞ると、77.5%が影響を受けたと答えた。受けた影響の内容としては、全体の73.9%が「中国のロックダウン・操業停止」を上げ、「ロシア・ウクライナ問題」(66.4%)が続いた。
実際に同年8月ごろの決算会見では各社が上海のロックダウンの影響や、ロシアでの事業縮小を報告。例えば、コマツは2022年4~6月期の中国における建設機械需要が前年同期比で6割減だったことや、ロシア向けの販売が大幅に減る見込みであると公表した。
社会情勢の変化を受けて、製造業の調達・購買担当者の価値観は変わってきている。キャディ代表取締役最高経営責任者(CEO)の加藤勇志郎氏は「従来、調達で最重要とされてきたQCD(品質・コスト・納期)以外の項目の重要性が増している」と注目する(図1)。
同社の調査によると、2018年に調達・購買において重視する観点として最多(50.7%)だった「調達原価の低減」は2022年には37.9%と3番目に順位を落とした(図2)。逆に、2018年時点で重視するとの回答が16.8%に過ぎなかった「調達先・生産キャパシティの確保」は2022年に38.6%に増え、「調達原価の低減」を重視するとの回答を上回った。
2020年と2022年の比較で最も差分が大きかったのは「最適な安全在庫の設定」で、22.9%から34.6%に伸びた。加藤氏は「在庫を持たざる経営から在庫を持つ経営に変わってきている」と語る。