ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さった衝撃的な映像などにより、海洋に流れ出たプラスチック廃棄物の問題が大きな関心を集め、「脱プラスチック」を目指す機運が高まっている。しかし、プラスチックを十把ひとからげに扱うことは、そのさまざまなメリットの放棄につながる。冷静に問題の本質を見極め、適切な対応を選択する必要がある。その1つが、生分解性プラスチックの利用拡大であり、そこでは日本の技術力が生かされる。プラスチック技術の第一人者が、プラスチック廃棄物問題の本質と、日本の産業界がなすべきことを解説する(本誌)。

さまざまなメディアで、海洋へ流出したプラスチック廃棄物(海洋ごみ、マリンリッター)に関連するニュースが頻繁に報じられている*1。その発端の1つは、ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さった映像がSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などインターネット経由で拡散されたことであろう。海洋へ流出したプラスチック廃棄物を海鳥や魚、鯨などが捕食してしまい、これらの内臓に詰まっていた映像も報道されている。
「脱プラスチック」しか手はないのか
一連の情報に素早く反応した米スターバックス、米マクドナルド、米ハイアットホテルズ、オランダ・イケア、すかいらーくホールディングスなどの企業がプラスチック製ストローの使用や販売の中止を表明している。これらの取り組みは、「脱プラスチック」という表現で報じられる場合も多い。
しかし、この「脱プラスチック」という視点は、残念ながらプラスチック廃棄物の問題点を正確に認識できていないと言わざるを得ない。もちろん、多くの人々がプラスチック廃棄物の海洋流出に大きな関心を寄せるようになったのは歓迎すべきだが、この問題を解決する方法は、プラスチックの使用量を減らすことだけではないからだ。
まず、プラスチック廃棄物が地球環境、ひいては人間社会にどのような悪影響を与えるのかをきちんと知る必要がある。その最大の問題点はプラスチック自体の有害性ではなく、海洋に流出した後に微細化し、海水中の有害物質を吸着した上で濃縮してしまうというメカニズムにある。
PCBを高効率で吸着
有害物質の濃縮は次のように進む(図1)。まず、海洋へと流出したプラスチック廃棄物は、太陽光による劣化や波浪などの影響で破砕されてプラスチック粒子(以下、マイクロプラスチック)となる。マイクロプラスチックは、その表面に海水中のPCB(ポリ塩化ビフェニール)や有機リン化合物などの有害物質を非常に高い効率で吸着する性質がある。その濃度は海水の数千~百万倍にもなるという*2。
プラスチックが元来含有していた微量な重金属と一緒に小魚や魚貝類などに吸収され、より大型のマグロや鳥類などが捕食して内臓蓄積により有害物質の生物濃縮が起こる。それが、最終的に人間の体内に入ってしまうのが最大の懸念となる。
海に漂うストローを海洋生物が少しぐらい飲み込んだだけで、直ちに生態系に害が生じるわけではない*3。ストローが鼻に刺さってしまったウミガメは気の毒だが、ストロー自体には化学的な毒性はない。問題にすべきはストローがマイクロプラスチックになって生じる有害物質の吸着と、食物連鎖による生物濃縮の方なのである。