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「接合革命」が始まった。軽量化や材料の多様化により、これまでの溶接から接着剤への置き換えや併用が進んでいるのだ。けん引するのは自動車の車体を接着剤で接合する「構造接着技術」。先行する欧米企業は、一層の軽量化のために接着剤活用に積極的だ。産業技術総合研究所(産総研)と東京工業大学で構造接着技術の研究をリードする佐藤千明氏へのインタビューと、優れた構造用接着剤を開発した国内接着剤メーカー3社による寄稿で接合革命の現状を見ていこう。(聞き手は近岡 裕=日経 xTECH)

東京工業大学 佐藤千明准教授に聞く

佐藤千明 (さとう・ちあき)
佐藤千明 (さとう・ちあき)
東京工業大学科学技術創成研究院准教授、産総研接着・界面現象研究ラボ研究ラボ長、接着・接合技術コンソーシアム代表、日本接着学会構造接着研究会研究会長。専門は固体力学、接着の力学、複合材料工学。趣味はグライダー、水泳、シュノーケリング。 (写真:寺尾 豊)
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 自動車業界がクルマの車体に「構造接着」技術を使い始めています。高い強度や耐久性を必要とするボディーの部材(構造材)を、接着剤(構造用接着剤)で接合する手法です。構造接着技術が注目を集める理由は3つあります。

  • [1]軽量化に有利
  • [2]異種材料の接着が可能
  • [3]コスト削減に有利

 ボルトやリベットなどの締結要素を使わないため、締結部を圧倒的に軽くできます。加えて、溶接では難しい異なる金属同士や金属と樹脂の接合なども比較的簡単。この構造接着技術の活用が「接合革命」の正体です。

 自動車業界では今、異なる材料を適材適所で使いこなして大幅な軽量化を図る、ボディー設計の「マルチマテリアル化」が進んでおり、特に欧米の自動車メーカーが積極的です。このニーズにマッチするのが構造接着技術。その上、コストはリーズナブル。接着剤は典型的な機能性材料であり、原材料自体はそれほど高価ではありません。基本的に量産効果を引き出しやすく、使えば使うほど安価になり得ます。

構造接着技術で大幅に遅れる日本

 構造接着技術には、ステージ1~3の3段階があります(図1)。日本は現在、最も低いステージ1にいます。

図1 構造接着技術のステージ
図1 構造接着技術のステージ
数字が増えるほど技術水準が高くなる。ドイツは最上レベルのステージ3にいるのに対し、日本は最下レベルのステージ1にいる。
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 ステージ1は接着剤を、剛性を高めるために使う段階です。具体的には溶接と接着剤を併用する接合方法(併用継ぎ手)です。対象となる接合は鋼同士、アルミニウム(Al)合金同士です。スポット溶接などの溶接で接合強度を確保し、接着剤で剛性を補って走行時のボディーのたわみを抑えるといった使い方をします。

 ステージ2は、接着剤で接合強度をほぼ確保する段階です。対象となる接合は、鋼と鋼、AlとAl、そして鋼とAlです。ステージ2では十分な耐衝撃性が技術的な条件となります。耐衝撃性を高めるには、接着接合部の靭性もしくは延性を高め*1、衝撃のエネルギーを吸収する必要があります。特にエポキシ系接着剤の靭性の低さのカバーが技術的な課題となります。

*1 靱性は材料の粘りの強さ、延性は弾性の限界を超えて塑性変形になっても破壊せずに引き伸ばされる性質。

 ドイツは10年ほど前にこの段階に達しました。日本は5年ほど前にステージ1に上がり、これからステージ2を目指す状況。鋼と鋼の接合でも、AlとAlの接合でも日本はドイツに後れを取っています。

 ドイツは今、最上段のステージ3にいます。ステージ3は、接着剤で接合強度を確保するのはもちろん、対象となる材料が複合材料となります。すなわち、炭素繊維強化樹脂(CFRPや熱可塑性CFRP)同士やCFRPとAlなどの接合です。

 ステージ3では接着剤を構造材に塗る塗工システムが変わり、従来の延長で対応できません。新たに2つの技術課題への対応が必要です。1つはくっつける材料の接合部表面の前処理技術。例えば金型で成形するCFRP構造材の表面には離型剤が付着しています。サンドブラストなどで除去した後に溶剤で拭き取るといった接着の前工程で必要な技術を確立する必要があるのです。

 もう1つは利用直前に2種類の液を混合させる2液性接着剤の利用です。実は日本の自動車メーカーは2液性接着剤をほとんど使っていません*2。生産設備内で2液を混合する必要があり、使い勝手がよくないと見ているからです。しかし今後の一層の軽量化を考えると避けては通れません。

*2 かつては2液の混合比率が少しずれただけでトラブルが生じるほど接着剤が敏感だったこともあり、「取り扱いが面倒」といった悪いイメージが残っているのではないかと佐藤氏は推測する。当時に比べると塗工システムが進歩し、混合比率がずれても問題ない2液性接着剤も登場しており、ハードルは下がっている。

 実際、ドイツは既に2液性接着剤を使いこなしています。例えば、独ビーエムダブリュー(BMW)の電気自動車(EV)「i3」は2液性ポリウレタン系接着剤*3を導入し、複合材でCFRPのボディーをほぼ接着剤で接合しています。

*3 「i3」ではスイスのチューリヒに開発拠点を持つ、米ダウ・オートモーティブ・システムズ(Dow Automotive Systems)製とスイス・シーカ(Sika)製の接着剤を使う。