日本で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が市民権を得る何年も前から、製造業のデジタル化プロジェクトは始まっていた。2011年に始まった「インダストリー4.0」が目指すところも紛れもなくDXであり、製造業は最もDXが進んでいる業界と考えてもおかしくはない。
実際のところはどうなのだろうか。製造業DXの取り組み状況をつかむべく、日経BP総合研究所 クリーンテックラボと日経クロステックが日本科学技術連盟(以下、日科技連)の協力を得て製造業321社に対して実施した調査と、現場担当者3000人へのWebアンケートから、製造業DXの実情を探ってみよう。(クロスメディア編集部)
企業調査(321社)
DXだけど「変革よりも効率化」
日経BP総合研究所 クリーンテックラボと日経クロステックは2020年12月、製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する2つの調査を実施した。1つは321社から回答を得た調査(以下「企業調査」と記す)、もう1つは製造業の現場で働く3000人から回答を得た調査(以下「現場調査」と記す)である。この2つの調査それぞれの結果から見える製造業DXの実態と、2つの調査結果の比較から読み取れる経営と現場のギャップについて解説する。
企業調査は、企業の記名での公式回答であるから経営層の意向が色濃く反映されているはずだ。一方の現場調査は、「日経クロステック」と「日経ビジネス電子版」のメールマガジンの読者を対象としており、現場で働く個人の意見の集合といえる(それぞれ企業調査の回答者プロフィール、現場調査の回答者プロフィールの別掲記事に回答者のプロフィール)。
78.5%が「DXを重要」と認識
企業調査の結果でまず押さえておきたいのは、製造企業の「DXへの意識」である。結果は図1の通りで、「とても重要である」34.0%、「まあ重要である」44.5%で、この2つで78.5%に上る。「DXの取り組みは重要である」という考えは、製造業全体に広がっているといえる。
次に「DXへの着手状況」を見てみよう(図2)。「現在取り組んでいる」が最も多く44.9%、次が「今後1~2年以内に取り組みたい」の20.9%。全体の半分弱はすでに取り組んでいることが明らかになった。
「事業モデルの変革」はわずか22.5%
ここまでは予想通りの結果であったが、予想と大きく違った回答を幾つか見ていこう。
1つめは、「DXに取り組む目的・理由」である。期待を込めて予想したのは、「事業モデルの変革」「新規事業の展開」など、DXでなければできないような目的を掲げる企業が多いことだ。
だが、回答の多い順に並べると、「業務効率化、人手不足への対応」74.3%、「生産性向上」71.9%、「業務状況やプロセスの見える化」47.0%と続く(図3)。複数回答なので、こうした“永遠の課題"が多いのはある意味当然である。しかし「事業モデルの変革」は22.5%、「新規事業の展開」は19.4%、「新サービスの提供」は14.2%だった。「これでも十分高い」という見方もあるだろうが、期待したほど高くないという見方もできる。
期待と違った結果をもう1つ紹介しよう。それは「DXプロジェクトの取り組み(またはその準備)状況」である。「順調」との回答を期待したが、「あまり順調ではない」36.0%と「まったく順調ではない」13.4%を合わせると、約半分(49.4%)は「順調ではない」と回答している(図4)。DXの目的が「事業モデルの変革」や「新規事業の展開」などであれば「順調ではない」が多くても仕方がないように思うが、目的に比して見ると、この結果は低いと言わざるを得ない。