電動アクスル
高い完成度、冷却や電気接続を無駄なく一体化
EVの中核部品の1つが、駆動用モーターとインバーター、減速機(ギアボックス)が一体となった電動アクスルだ。エンジン車ではエンジンユニットに当たる部分である。ID.3の電動アクスルは、上部にインバーター、下部にモーターと減速機を搭載した2階建ての構造体だった。無駄な部分はほとんどなく組み上がっており、非常にコンパクトな印象だ(図11)。
シンプルな1段ギアを採用
減速機は、モーターの延長線上に接続してある。分解して内部を観察すると、1段のギアで、段変速がない非常にシンプルな構造だった(図12)。ギアは、モーターの軸、それを折り返すためのギア、そして出力軸のギアの3つだけ。折り返しのギアは「減速機をコンパクトにするためのもので、動力機構としては必ずしも必要がない」(VWの広報Webサイト)という。このように段変速がなく、シンプルな構造なのは「電動モーターは回転数に対してトルクが一定という特性があるため。後退時は逆回転させればよいので後退用のギアも必要ない」(同サイト)。
電動アクスルの温度を管理する冷却水の出入り口は、インバーター部とモーター部にそれぞれ1カ所あった。インバーターとモーターの間に冷却水の接続点があり、1系統で電動アクスル全体を冷やしていた。なお、モーターはステーターの外側のケースに、インバーターは内部のAl合金製冷却モジュールに水が流れるようになっていた。
電気接続は、インバーターからモーター側に向かってバスバーが3本伸びており、モーターのコイルの接点とボルトで固定されていた(図13)。最短距離で結ぶ非常にシンプルな設計である。ちなみにテスラのモデル3は、インバーターと減速機、モーターが1列に並ぶ構造となっている*8。
モーターの小型化を狙った新構造
電動アクスルの中のモーターは、永久磁石式同期モーターだった*9。ケースはアルミニウム(Al)合金の鋳造品で、内部に空洞があった。ここに水を流し、水冷している。モーターの回転角を検出するレゾルバは出力軸の反対側に設置していた。冷却の形態も、レゾルバの配置も他社のEVでも採用している一般的なものである。
外周にあるステーター(固定子)に巻かれたコイルに交流を流すことで、内部の磁界を変化させ、内側にある永久磁石が組み込まれたローター(回転子)を回す。
興味深いのはステーターのコイル部分だ。ID.3のモーターのコイルには、平角線を使っていた。コイルの折り返しの部分は自在に曲げられないため溶接してあった(図14)。
リーフやモデル3のモーターは、丸い銅線を巻き重ねている。ID.3のこの構造に対してモーターに詳しい技術者は、「コイルの銅線密度を上げるのが目的だろう」と推測する。銅線密度を上げて磁束密度を高めて小型化する。ただし、「トヨタ自動車が既に4代目プリウスなどでこの構造のコイルを採用済み」(前出の技術者)という。ホンダのハイブリッド車(HEV)でも、平角型が使われているようだ。
上部のインバーターはAl合金のケースで覆われており、内部には主要部品として、制御基板とゲート駆動回路基板、パワーモジュールがあった。制御基板とゲート駆動回路基板の間にはAl合金製の鋳造部品が配してある。ゲート駆動回路基板側に放熱用のシリコーンが貼られて、これがAl鋳造部品に接触していることから、主に冷却を狙ったものとみられる。内部の構造は全体的に余裕がある。モーターと減速機の上に搭載する構造のため、底面積を大きく取れたとみられる。
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完成度高いID.3の電動アクスル 冷却や電気接続を無駄なく一体化
ID.3がモーターに平角線コイル 4代目プリウスと同じ