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「こんな成分調整は前代未聞だ」―。社内でこういわれたバイク用軽量ホイールがついに量産に至った。手掛けたのはヤマハ発動機。2020年末に欧州で発売し、21年7月に国内投入した大型主力モデルの新型「MT-09」に初搭載。前後輪合わせて0.7kgの軽量化を実現した。アルミ合金の使用量も約1割削減し、脱炭素に貢献する。数々の苦難を乗り越えたホイール技術者らの奮闘に迫った。

写真:ヤマハ発動機
写真:ヤマハ発動機
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 2015年末のこと─。静岡県磐田市に拠点を構えるヤマハ発動機の技術者たちは、会議室の一室で白熱した議論を交わしていた。会議の主題は「次世代のホイール技術開発」。各技術者が持ち寄ったアイデアを基に、有望な技術シーズの洗い出しを進めていた。

「もっと、もっと軽量化を徹底しなくては」

「いや待ってくれ。それではコストに見合わない」

「競合他社の存在を忘れるな」

 皆が活発に意見を出し合う。その中心にいる人物が、同社PT技術部第1製技G鋳造技術に所属する末永健太郎だ。主にホイールの鋳造技術や生産準備を担うベテラン技術者である。そして、この会議をきっかけに次世代ホイール開発のプロジェクトリーダーの道を歩むことになる。

 そもそも、末永らはなぜホイールに着目しているのか。軽いホイールはそれだけで機敏な動きを生みやすい。一方で、重いホイールは運転者の意図より動きが遅れやすく、フィーリング、すなわち運転感覚の悪化を招く。ホイールはバイクの走行性能を左右する重要部品といえる。

 ホイールは大きく3つの部位に分けられる。中心部から[1]ハブ、 [2]スポーク、 [3]リム、と呼ぶ。ホイール全体で足回り部品としての安全強度を確保しつつ、車軸とつなぐハブには剛性の高さが、ハブから放射状に伸びるスポークにはデザインの自由度が、そしてタイヤに組み付けるリムには軽さが必要となる。

 現在、同社のバイク用ホイールの主流はアルミニウム合金製の重力鋳造品。ハブの剛性を高めやすく、スポークのデザイン自由度も高い。一方で、強度上の課題から薄く軽いリムの実現には限界があるとされてきた。