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写真:JAXA
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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2022年1月21日、21年度(22年1~3月)に予定していた次世代ロケット「H3」初号機の打ち上げを延期すると発表した。新規開発したエンジン「LE-9」のターボポンプで、振動問題が確認されたためだ。新たな打ち上げ時期は未定となっている。H3の抱える振動問題とは何か。ノンフィクション作家兼科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発している日本の次期基幹ロケット「H3」。その初号機打ち上げが期限不定で再延期された(図1)。JAXAによると、原因は開発中の第1段エンジン「LE-9」のターボポンプに起きた振動だ(図2)。

図1 地上試験を行う「H3」ロケット
図1 地上試験を行う「H3」ロケット
(出所:JAXA)
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図2 第1段エンジン「LE-9」
図2 第1段エンジン「LE-9」
JAXA種子島宇宙センターのテストスタンドを使った燃焼試験の様子。(出所:JAXA)
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 2020年5月に実施した燃焼試験で、燃焼室内壁や液体水素ターボポンプのタービン動翼に亀裂が発生。20年度末に予定されていた打ち上げを延期したのに続く、2度目の延期となる。JAXAによると、20年5月の燃焼試験で明らかになった設計上の課題はほぼ解決できていたが、新たなフラッター現象*1が発生すると確認された。今回も予期せぬ振動の発生が延期の理由だったわけだ。

*1 フラッター現象
構造物とその周りを流れる流体とが連成して発生する自励振動現象。今回のH3打ち上げでは、流体力学的な圧力・流量の変動とタービンディスクの変形振動との連成に起因するフラッター現象が発生した。