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2019年9月11日午前3時ごろ、打ち上げを目前に控えた「H-IIBロケット8号機」で火災が発生した。火が上がったのは、ロケットの台座である移動発射台の開口部。即座に消火活動を開始し、打ち上げは中止された。移動発射台で火災が発生したのはH-IIAを含めて50回に迫る打ち上げで初めてのことだ。ロケットの打ち上げを担っていた三菱重工業は、事故原因を究明した上で対策を実施。再打ち上げを成功させた。

 三菱重工業は2019年9月23日、「H-IIBロケット8号機」の射点で同年9月11日に発生した火災の原因と対策、および再打ち上げに向けた準備状況についての説明会を開催した。この段階で同年9月25日の再打ち上げも決定しており、9月11日の火災発生から2週間という短期間での原因究明と対策の決定、安全確認を実施したことになる。

* 説明会は、再打ち上げの2日前の「打ち上げ前ブリーフィング」と同時に開催された。なお、2019年9月20日の段階では同年9月24日に打ち上げると発表された。しかし、最新の国際宇宙ステーションおよびソユーズ宇宙船の軌道に基づく解析結果により、「こうのとり」分離後のロケット2段機体がソユーズ宇宙船に接近する可能性があることが判明したため、打上げ日時を9月25日に延期した。

 この発射台は、何度も打ち上げに成功した実績があり、一部の消耗品は交換するものの構造や材料の種類などに変更はない。しかし、火災発生時には「ほぼ無風状態だった」(三菱重工)という点が従来の打ち上げ時とは異なるという。三菱重工による調査で判明した原因について詳細を見てみよう。

数秒間は大きく燃え上がる

 火災が発生したのはH-IIBロケットを打ち上げるための移動発射台「ML3」の開口部だった(図1)。移動発射台とはロケットの機体を組み立てる台座で、それに載せたまま組み立て場所から射点まで運ぶ。射点での燃料の充填や最終的な点検を行う機能なども備える。

図1 火災の発生個所
図1 火災の発生個所
2019年9月11日の3時5分ごろ、移動発射台「ML3」の開口部で火災が発生した(赤丸の部分)。右の図は下方から見た断面図。(三菱重工業の資料を基に日経ものづくりが作成)
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 ML3は、H-IIAロケットで使っている移動発射台「ML1」とは別の、H-IIBロケット向け移動発射台だ。H-IIBロケットとH-IIAロケットの最大の違いは、第1段エンジン(LE-7A)の数。H-IIBロケットは2つのLE-7Aを備える(H-IIAロケットは1つ)。このため機体のサイズが異なり、移動発射台も別となる。

 火災が発生したのは打ち上げ予定時刻9月11日午前6時33分の約3時間半前。打ち上げを実施する種子島宇宙センター(鹿児島県・南種子町)の第2射点に移動し、最終準備を進めている最中だった。監視カメラの画像からは、3時4分54秒に発火し、すぐに大きく燃え上がっている様子が確認できた(図2)。数秒で火炎は小さくなったものの、火災は2時間ほど続いた。

図2 2019年9月11日午前3時過ぎにH-IIBロケット8号機で発生した火災の状況
図2 2019年9月11日午前3時過ぎにH-IIBロケット8号機で発生した火災の状況
外部から第1段エンジン部を撮影した画像と、ノズル部を下方から撮影した画像。発火から数秒で大きく燃え上がった。炎が小さくなってからも約2時間火災が継続した。(出所:三菱重工業)
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 火災が発生した場所の具体的な位置は、移動発射台の開口部のうち、第1段エンジンの下側にある壁面の1カ所。ここでは、移動発射台開口部の構造材である鋼板の表面に、断熱材(ポリ塩化ビニル製)と耐熱材(シリコーン製)から成るプレートを貼ってあった(図3)。プレートの大きさは高さ4×1.6mほどで、今回の火災で7~8割が燃えたという。

図3 耐熱材の施工部
図3 耐熱材の施工部
この部分で火災が発生したと特定された。鋼材の冷却割れを防ぐため、H-IIBロケット3号機以降に施工された。(出所:三菱重工業)
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