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米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)の自動運転車両が2018年に起こした歩行者死亡事故について、米国家運輸安全委員会(NTSB)が2019年11月5日に調査報告書を公表した。事故を巡っては、ドライバーが動画の視聴に興じていたことがセンセーショナルに語られてきたが、報告書からはウーバーによるドライバー管理のずさんさと、開発における「判断系」の作り込みの難しさも見えてきた。

 事故が発生したのは、2018年3月18日午後9時58分(米国山岳部標準時)。ウーバーの自動運転技術開発子会社であるウーバー・アドバンスト・テクノロジーズ・グループ(以下、ウーバーATG)の自動運転車両が、アリゾナ州テンペの車道を試験走行中に、自転車を押して左から車道を横断しようとしていた歩行者(女性、49歳)と衝突(図1)。歩行者が死亡した。

図1 衝突の直前の様子
図1 衝突の直前の様子
左から自転車を押した歩行者に時速60km余りで衝突した。(出所:テンペ警察が公開した動画)
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 今回の報告書では、ウーバーATGの自動運転システム(ADS)が歩行者を検出したのが衝突の5.6秒前だったと明らかになった(図2)。しかし、緊急ブレーキなどは作動しなかった。なぜ事故は起こったのか。

衝突までの
時間(秒)
速度(km/h) ADSによる分類
()内はセンシング機器
移動状況と進路の予測 詳細
−9.9 56 未検出 時速56km(時速35マイル)から加速を開始
−5.8 71 未検出 時速71km(時速44マイル)に到達
−5.6 71 車両(レーダー) ー:SUVの進路上ではない レーダーがオブジェクトを初めて検出し、「車両」と分類
−5.2 72 その他(LIDAR) 静止:SUVの進路上ではない LIDARが不明なオブジェクトを検出(LIDARによる最初の検出)。追跡履歴は利用できないため速度は算出できず。ADSはオブジェクトの経路を静止(静止物)として判断
−4.2 72 車両(LIDAR) 静止:SUVの進路上ではない LIDARはオブジェクトを「車両」として分類。分類が違うため追跡履歴は利用できず
−3.9 車両(LIDAR) 左から車線に接近(SUVに隣接):SUVの進路上ではない LIDARは「車両」との分類を保持。ADSは追跡履歴からオブジェクトが左から車線に近づくとの進路を予測
−3.8

−2.7
72 車両とその他を数回交互に(LIDAR) 静止と左レーンを交互に:いずれもSUVの進路ではない オブジェクトの分類は、「車両」と「その他」の間で数回変遷。変わるたびに追跡履歴がクリアされるため、ADSはオブジェクトを静止物と予測。検出されたオブジェクトの分類が同じままの場合は、左から車線に近づくと予測した
−2.6 72 自転車(LIDAR) 静止:SUVの進路上ではない 自転車として分類。分類が変わったため追跡履歴がなくなり、静止物と予測
−2.5 72 自転車(LIDAR) 左から車線に接近(SUVに隣接):SUVの進路上ではない 「自転車」との分類を保持。ADSは左から車線に近づくと予測した
−1.5 71 不明(LIDAR) 静止:部分的にSUVの進路上にある 分類は「不明」に。分類の変更により追跡履歴がなくなり静止物と判断。オブジェクトの一部がSUVの走行レーン上にあり、ADSはオブジェクトの右側へと回避する進路計画を生成
−1.2 69 自転車(LIDAR) SUVの走行車線上:完全にSUVの進路上にある LIDARが「自転車」と分類。分類の変更により追跡履歴がなくなる。ADSは、自転車が完全にSUVの進路にあると予測するも、−1.5秒の段階で生成した回避経路の操縦は不可能となったため、危険な状況と判断。しかし、その後、動作抑制状態に遷移した
−0.2 64 自転車(LIDAR) SUVの走行車線上:完全にSUVの進路上にある 1秒間の動作抑制後も状況は依然として危険だったため、ADSは車両の減速に入ると同時に、オペレーターに警報を発報
−0.02 63 オペレーターがステアリングホイールを操作しADSが解除される
衝突
0.7 60 オペレーターがブレーキ操作
図2 衝突までの物体の認識や移動方向・速度の予測の推移
図2 衝突までの物体の認識や移動方向・速度の予測の推移
(NTSBの報告書を基に日経ものづくりが作成)
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