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2018年5月、熊本空港を出発した日本航空JA8980機が左エンジンのトラブルで同空港に引き返した。 同エンジンの高圧タービンのブレードが破断して約400個の破片が地上に落下。建物や車両に被害が出た。 破断の原因は、ブレードのコーティングに生じた高温腐食や亀裂を起点とする低サイクル疲労だった。 実は過去にも同型ブレードで同様の事故が起こっていた。なぜ再発を防げなかったのか。

 事故が発生したのは18年5月24日。乗客209人と乗務員7人を乗せたJA8980機(ボーイング767-300型)が羽田空港へ向けて熊本空港を離陸したところ、同空港の南西約6kmの地点で振動を伴う異音が発生した。計器の表示は、左エンジンの回転数が低下し、排ガス温度と同エンジンの振動値が上昇していることを示していた。

 機長と副操縦士が同エンジンの推力を絞ると、計器の表示は正常値の範囲内に戻り、振動と異音も小さくなった。チェックのために推力をゆっくり上げたところ、振動と異音は再び大きくなったという。すぐに推力を戻すと異音は小さくなったが振動は続いた。そこで機長らは同エンジンの推力をアイドルにしたまま、熊本空港へ引き返す決断を下した。

 着陸後に点検したところ、同エンジンの高圧タービンのブレードが破断していた(図1)。詳細は後述するが、ブレード表面のコーティングに高温腐食や亀裂が生じ、これを起点とする低サイクル疲労*1によって破断したとみられる。破片の一部は低圧タービンのケースに衝突し、開口(裂け目)の原因となった。さらに機体を調べたところ、左エンジンの後方に位置するフラップや水平尾翼、フェアリングに擦れた跡や打痕が見つかった。

図1 損壊した高圧タービンの2段目
図1 損壊した高圧タービンの2段目
米General Electric製の2軸式ターボファンエンジン。高圧タービン2段目にあるブレード74枚のうち、赤色丸印で示した「13番ブレード」が最も大きく破断していた。赤色矢印はタービンの回転方向を示している(a)。(b)は、タービンに残っていた10~13番のブレード。番号が若いほどブレード部の損傷が小さい。(出所:運輸安全委員会)
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*1 低サイクル疲労
金属に塑性変形を与えるような繰り返し荷重を与えた場合に、1万サイクル以下で疲労破壊する現象のこと。

 熊本県・益城町付近には同エンジン部品の破片が落下し、地上の建物の窓ガラスや屋根、車両のフロントガラスなどが損傷する被害が出た。回収された破片の数は約400個で、最も重いものは約70gあった。同エンジンを調査した結果から、合計で約73kgの破片が落下したとみられる。負傷者はいなかった。

 国土交通省の運輸安全委員会は、同事故を重大インシデントに認定して調査を実施。2020年7月30日に報告書を公開した。この報告書の内容を基に、原因を解説する。