2019年1月16日、埼玉新都市交通の伊奈線で列車脱線事故が発生した。同線はゴムタイヤで走行する新交通システムで、一部のタイヤが損壊していた。ゴムタイヤには空気が抜けてもある程度走行できる仕組みを備えていたが、その限界よりも短い距離の走行で事故に至っていた。
脱線事故の発生時、激しい揺れが生じて車両が傾いたものの、幸いにも乗客約100人、運転士1人に負傷者は生じなかった。運輸安全委員会は事故直後から調査を開始し、2020年10月に鉄道事故調査報告書(以下調査報告書)を公開1)。検査の不十分さがタイヤの内圧低下と破損を招き、脱線へと至ったと推定した。
異音に気付いて停止
事故発生時の状況から整理しよう。当該列車は内宿発大宮駅行きの上り列車(6両編成)で、事故は加茂宮駅と鉄道博物館駅の間を約30km/hで走行していた際に発生した。加茂宮駅を定刻の11時01分に出発した数分後、運転士が後方で発生した「ボン」という異音に気付いた。
運転士はブレーキを使用して列車を停止。各車両の車内を確認したところ、最後尾の6両目の車体前部が傾き、横方向に約50cmずれていたという。総合指令所からの連絡で到着した係員が外部から見ると、6両目の車体左前部が高架橋の側壁に接触し、第1軸左のタイヤ(No.2)が破損した状態で走行路から逸脱。第1軸右のタイヤ(No.1)もパンクしていた(図1)。
伊那線は、「側方案内軌条式鉄道」と呼ばれる新交通システムだ。ゴムタイヤで走行路上を走行し、走行路の左右にある壁に設置した案内軌条(案内レール)が案内輪をガイドする仕組みになっている(図2)。
このため、一般の鉄道の車輪が線路に対して左右方向の動きを制約されているのとは異なり、走行輪(ゴムタイヤ)は車両の垂直方向の荷重を支えるだけで、左右方向には自由に動ける。走行路はほぼ平面で、タイヤの走行をガイドするような溝は設けられていない*1。