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2019年6月、横浜市内を走る無人自動運転の鉄道路線「金沢シーサイドライン」で列車の逆走事故が発生した。信号線の断線によって制御装置に進行方向が正しく伝わらなかったのが直接の原因だった。なぜフェールセーフが機能しなかったのか、どうすれば再発は防げるのか。鉄道事故に詳しい佐藤R&Dの佐藤国仁氏が再発防止策を考察する。(編集部)

 事故後、国土交通省の運輸安全委員会(以下、委員会)は、直ちに調査を開始。21年2月18日に、事故原因の調査結果と再発防止策、勧告などを含む事故調査報告書(以下、報告書)を公表した1)。本事故については、直接の原因が事故直後にほぼ判明しており、当コラムでも以前取り上げている2)。今回は報告書が提案する再発防止策の問題点について、佐藤R&Dの佐藤国仁氏に考察してもらう。その前に事故の概要を振り返っておこう。

断線で進行方向を反転できず

 事故が起こったのは、横浜市内の新杉田駅と金沢八景駅を無人運転で結ぶ金沢シーサイドライン(以下、シーサイドライン)。19年6月1日20時15分ごろ、始発の新杉田駅から出発しようとした下りの5両編成の車両(並木中央駅行き)が逆方向に走り出し、速度約25km/hで終端の車止めに衝突した(図1)。この事故で乗客25人中17人が負傷、うち12人は重傷だった。

図1 車止めに衝突したシーサイドライン
図1 車止めに衝突したシーサイドライン
始発の新杉田駅を出発しようとして逆走し、線路終端の車止めに衝突した。17人の乗客が負傷した。(出所:運輸安全委員会)
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