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2020年10月20日16時40分ごろ、旭化成のグループ会社で火災事故が発生した。事故が起こったのは、旭化成マイクロシステム(東京・渋谷)の生産センター第二製造部半導体工場(宮崎県延岡市)。5階建ての工場のうち3〜5階が焼損し、3、4階にあったクリーンルーム内の生産装置と付帯設備が焼け、生産が止まった。

 火災発生時、旭化成マイクロシステムの生産センター第二製造部半導体工場内にいた4人の従業員が出火を確認した。従業員が通報した10分後には市の消防隊が同工場に到着し、消火に当たった。しかし、火の勢いは激しく、鎮火宣言が出たのは10月24日12時25分。出火が確認されてから約92時間が経過していた(図1)。

図1 発災後の半導体製造工場の航空写真
図1 発災後の半導体製造工場の航空写真
火災によって5階屋根が崩落している。(出所:旭化成・旭化成エレクトロニクス)
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 出火したのは同工場の製造棟4階。その後、5階にも延焼し、広範囲にわたって焼損した。5階の屋根は一部が崩落し、消火水や雨水などによって階下が水損。3階の床下エリアには、4階クリーンルームにあった設備などが落下した(図2、3)。

図2 工場棟断面図
図2 工場棟断面図
クリーンルームは、1階層(建屋1階と2階)と2階層(建屋3階と4階)の2区画。建屋2階と4階には「ウエハー製造エリア」がある。建屋1階と3階には生産装置の補機や用役設備が付設されている「床下エリア」 がある。ウエハー製造エリアと床下エリアは、グレーチング(硬質の格子状の構造材)の床で仕切られている。(出所:旭化成・旭化成エレクトロニクス)
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図3 製造棟内の被害状況
図3 製造棟内の被害状況
(a)4階クリーンルーム西側、発火点とされる未反応チタン除去装置付近。(b)5階北側ウエハー検査エリア付近。(c)2階クリーンルーム内。(出所:旭化成・旭化成エレクトロニクス)
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 2階クリーンルームと1階クリーンルーム床下エリアには延焼しなかったが、消火水や雨水などによる水損が発生した。被害は極めて大きく、工場は21年10月20日時点でも停止中だ。同時点では建屋の再利用を含めて、復旧の見通しが立っていない。

 旭化成と旭化成エレクトロニクスは火災発生後、20年11月6日に事故調査委員会と事故対策委員会を、21年2月4日に事故調査部会を設置*1。事故現場の検証をはじめ、各種実験データや解析結果、記録類を含む関係書類や証言を検証し、火災事故の原因究明と再発防止策の検討を進めた。その調査結果を21年9月14日、「旭化成エレクトロニクス生産センター第二製造部半導体製造工場火災事故調査報告書」(以下、報告書)としてまとめた。

*1 旭化成エレクトロニクスは旭化成マイクロシステムの100%親会社。旭化成は旭化成エレクトロニクスの100%親会社。

 本稿では、報告書で推定した事故原因と発生プロセスを基に、同事故から得られる教訓をみてみる。