全3619文字
PR

堺化学工業の湯本工場(福島県いわき市)で2021年5月11日、粉じん爆発が発生した。午前7時40分ごろ、従業員が亜鉛粉末の分級工程で分級ファンを起動した直後だった。分級ファンの羽根の表面に付着した堆積物が偶発的に剥離して、回転軸が偏芯。偏芯した回転軸が分級ファンのきょう体と接触して火花が生じ、浮遊する亜鉛粉末に着火した。

 亜鉛粉末(以下、亜鉛末)の粉じん爆発が発生したのは、従業員が分級ファン*1を起動してから2分後のことだった。同ファンから異音が生じているのに気付いた従業員がスイッチを切ろうとしたところ、スイッチを切る前に爆風を浴びたという。爆発と火災は他の設備に広がり、工場の建屋も破損(図1)。重傷者1人、軽傷者3人の事故となった。

*1 分級ファン
ここでは、亜鉛末の分級設備に気流を送るファンのこと。粒径の異なる亜鉛末をこの気流に乗せて分級機に送り、大きさごとに振り分けていた。
図1 損傷した工場建屋
図1 損傷した工場建屋
亜鉛末の製造工程で粉じん爆発が発生した。スレートぶき構造の屋根と外壁の一部が破損した。(出所:堺化学工業)
[画像のクリックで拡大表示]

 亜鉛末は水と反応して水素を生じる恐れがあるため、放水による消火が難しい(図2)。そこで、消火活動には粉末消火器と乾燥砂が用いられた。また、工場に残っていた亜鉛末の仕掛かり品はバケツリレーで工場外に運び出され、砂を掛けた状態で温度が低下するのを待った。消防署が鎮火宣言を出したのは、爆発から19日後の2021年5月31日だった。

図2 亜鉛末の例
図2 亜鉛末の例
外観は灰色、密度は7.14g/cm3、自然発火点は460℃、爆発下限濃度はおよそ1000g/m3。酸や濃アルカリ、水に触れると水素を生じる。(出所:堺化学工業)

 堺化学工業は同年6月、損傷した亜鉛末工場の再建を断念し、事業から撤退すると発表した。併せて社外の識者を含む事故調査委員会を発足させ、原因究明を開始。22年1月7日、結果を取りまとめた事故調査報告書を公表した1)。本稿では同報告書を基に、事故の原因と爆発に至ったプロセスをみていく。