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2022年3月16日に発生した福島沖を震源とする地震で、東北新幹線が停車中(あるいは停車直前)に脱線した。逸脱防止ガイドなどの脱線防止策も奏功しなかったようだ。しかも、車両の逸脱幅は約1000mmと、過去2番目の大きさだった。地震による脱線は防げないのか。鉄道事故に詳しい佐藤R&D代表取締役の佐藤国仁氏が解説する。(本誌)

 脱線したのはJR福島駅を出発し、白石蔵王駅に向かっていたやまびこ233号だ(図1)。

図1 脱線したやまびこ233号
図1 脱線したやまびこ233号
先頭の17号車。線路から逸脱しているのが分かる。6号車の最大逸脱量は約1000mmに及んだ。(出所:東日本旅客鉄道)
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 実は、新幹線の脱線は初めてではない。04年10月23日に新潟県中越地震で上越新幹線の車両が脱線したのをはじめ、これまで3回脱線している()。幸いにも死者が出るような大事故には至っていない。しかし、多くの乗客を乗せた新幹線が走行中に脱線し、もし対向車と衝突するなどの事態になれば多数の死傷者が出る大事故に発展する。

表 過去3回の新幹線脱線事故との比較
(国土交通省やJR東日本の資料などを基に筆者が作成)
表 過去3回の新幹線脱線事故との比較
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 JR各社もそのリスクを認識している*1。東日本旅客鉄道(JR東日本)は、東北新幹線には「逸脱防止ガイド」と「レール転倒防止装置」を設置していた(図2)。それにもかかわらず脱線した車両は、最大で1000mmという大きな逸脱が生じた。なぜなのか。

*1 2004年の中越地震の際に多数の車両が脱線し、レールから大きく逸脱したのを受けて、「逸脱防止ガイド」や「レール転倒防止装置」、「脱線防止レール」を設置している。
図2 レール転倒防止装置と逸脱防止ガイド
図2 レール転倒防止装置と逸脱防止ガイド
東北新幹線では全線、レール転倒防止装置と逸脱防止ガイドを設置していた。レール転倒防止装置は枕木などに設置し、レールが転倒するのを防ぐ。逸脱防止ガイドはL字形の部品。脱線時にレールに引っ掛かって大きな逸脱を防ぐ。(出所:東日本旅客鉄道)
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 この脱線事故についてJR東日本が公表した資料*2と、日経ものづくり編集部の取材などを基に、事故の概要を整理し、車両の脱線と逸脱が発生したメカニズムについて考察する。

*2 JR東日本は2022年3月25日までに5回にわたって被災や脱線の状況に関するプレスリリースを公表している。