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2012年7月にエンジンから出火して走行中のトラックが全焼した。トラックの所有者だった東和運送(大阪府寝屋川市)は、製造元のいすゞ自動車を相手取って、積み荷と車体の損害などに対し損害賠償金約1億円を請求*1。一審の大阪地裁は原告の主張を退けたが、二審の大阪高裁は一転して自動車の製造物責任を認め、約9400万円の支払いを命じた。第2回では判決文を基に、いすゞ自動車に賠償責任を認めた大阪高裁の判断を取り上げる。

*1 事故当時の所在地は大阪市。

 「トラックのエンジンから出火するなど事故が発生しても、訴訟にまで発展するケースは少なかった」。今回のトラック火災事故で、原告である東和運送の代理人を務めた弁護士の松森彬氏はこう話す。

 従来は訴訟になっても、製造物責任(PL)法に基づく判断枠組みが確立していなかったため、原告である使用者に事故発生のメカニズムなどの証明が求められた。しかし、エンジンの専門家ではない使用者にとって、この証明は現実的には困難だ。エンジンを開発・設計したメーカーの「事故の原因は整備不良」などとする主張が通り、欠陥が認められないケースが多かったという(図1)。

図1 トラック事故における損害賠償請求の原告負担
図1 トラック事故における損害賠償請求の原告負担
製造物責任(PL)法の判断枠組みが確立されていなかった従来は、原告が事故発生の原因やメカニズムなどを証明しなければならなかった。大阪高裁2021年4月28日判決では、PL法の趣旨にのっとり、「通常予想される形態での使用」と「車両の点検整備に不備がなかった」点などから、事故が発生したトラックには「欠陥があった」と推認した。(出所:日経ものづくり)
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 ところが、大阪高裁は2021年4月28日判決で、使用者である東和運送に事故発生の「原因・機序(メカニズム)についての証明責任を負わせるのは酷だ」との見解を示した。

 PL法の趣旨にのっとり、使用者が「通常予想される形態でトラックを使用し、その間の点検・整備にも事故の原因となるような不備がなかった」点などを立証すれば、製品に「通常有すべき安全性を欠いていた」として、欠陥があったと推認。使用者が、エンジンのどこにどのような欠陥があり、なぜ事故が発生したかといった詳細まで立証する必要はないとの判断を下したのだ。

 大阪高裁はなぜ、東和運送がトラックを「通常予想される形態で使用しており、車両の点検整備に事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかった」と認め、いすゞ自動車が「これを覆すに足りる立証をしているとはいえない」と結論付けたのか。大阪高裁の判決文を基に、その理由について解説する1)