編集部:コンプライアンス(法令順守)が厳しく問われる時代になりました。それに伴い、内部通報制度の利用者も増えているようです。もちろん、会社の健全化に寄与し、不正を正すきっかけとなる内部通報制度は大切なものです。一方で、こうした制度に頼らなければならない状況に陥っている会社は、少々不幸に感じます。
肌附氏—内部通報制度を利用する社員がいる会社は、現場に不満がたまっているものです。マグマのようにたまった不満が、何かをきっかけに爆発する。その際に内部通報を利用するわけです。
今、コンプライアンスを順守せよと、あらゆる日本企業が社員に命じています。そのためにルールを明確化したり、マニュアルを作成したり、eラーニングを受講させたりと、さまざまな工夫を凝らす企業が増えています。もちろん、こうした取り組みは企業として必要です。ところが、それでも不正を起こしたり、繰り返したりする企業は消えません。
編集部:確かに、例えば日産自動車の完成検査不正の発覚は、2017年9月に始まって2018年12月までの間で4回を数えました。コンプライアンス教育を徹底する、再発防止を徹底すると謝罪会見のたびに発表していたのですが、結局は繰り返してしまっています。
肌附氏—いくらコンプライアンス教育を施しても、頭で分かったつもりになっているだけで、心に届いていなければ効果は期待できません。品質を後回しにするのは、お客様の満足のために何としても製品の品質を守るのだという気持ち、すなわち「品質マインド」になっていないからだと、以前の回で説明しました。社員に順法精神を説く前に、会社や職場の風土や文化を変える必要があるのです。
内部通報に陥る事態とその回避も、これと似たところがあります。日産自動車の検査不正のケースでは、不正を繰り返す理由を問われた同社社長がマネジメント層と現場との間にコミュニケーションの断絶があると会見で答えていました。
編集部:「経営陣が言っていることは課長まではきちんと伝わる。ところが、係長以下には届かない」という、日産自動車社長兼最高経営責任者(CEO)の西川廣人氏の回答ですね。確かに、会見時にそう答えていました。