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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

開発部門の中のチームでリーダー役を務めています。今、悩んでいるのは人が足りないことです。正直に言って、チーム内は仕事ができる部下とそうではない部下で2極化しており、そのしわ寄せが仕事のできる部下へ来ている感じです。このままでは一部の部下にかかる負荷が過大になってしまいます。部下の全てを戦力化するために、即効性のある人材育成方法を教えてください。

編集部:人手不足は深刻です。どこの企業に取材に行っても、二言目には「人が足りない」「募集しても集まらない」といった言葉を耳にする状態です。予想を超える新技術の進歩が起きており、仕方がないという意見が多いように感じます。ではどうするのかと尋ねると、「やはり、自社で育てるしかない」という声をよく聞くようになりました。

肌附氏—確かに、人工知能(AI)、5G(第5世代移動通信システム)といった新たな技術が登場し、自動運転車やスマートシティーといった従来の延長線上にないものの開発がここまで現実感を持って進むとは予想しづらかったかもしれません。

 しかし、技術の進展は言い訳にはなりません。技術は常に進化していくもの。どのような技術であっても、それを取り込んで仕事を遂行するのが製造業に従事する人の務めです。実際、電子化やIT化、デジタル化が進んだので製品が造れませんなどとは、これまで言ってこなかったではありませんか。

 ですから、どのような技術が誕生し、それによって変化が生じたとしても、対応できる人材を育成することは、会社として最も大切な仕事であるはずです。人手不足を嘆き、今から「やっぱり、自社で人材を育てないと」などとのんきなことを言っている企業は、危機意識が低すぎると言わざるを得ません。

編集部:耳に痛い言葉です。過去に戻ってやり直したいと思う企業もあるかもしれませんが、時計の針は巻き戻せないのでここから頑張るしかありません。トヨタ自動車ではどのようにしているのでしょうか。

肌附氏—トヨタ自動車では「ものづくりは人づくり」と、新入社員は真っ先に教わります。トヨタ自動車を世界的な自動車メーカーに成長させて「中興の祖」といわれた5代目社長の豊田英二さんは、社員に向かっていつもこう言っていました。「人間がものをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」と。言うまでもなくトヨタ自動車はクルマを造る会社ですが、その前に、社員をきちんと育てなければ良いクルマを生み出すことはできないと、英二さんは考えていたのです。人材育成はトヨタ自動車が大切にしてきた風土や文化といったものであり、さらに言えば、経営理念の1つといってもよいでしょう。

 では、なぜ英二さんは人材育成の大切さを社員にこんこんと説き続けたのか。それは戦後の苦しい時代にトヨタ自動車が人材不足を身をもって経験したからでしょう。トヨタ自動車は当時、地方の一企業にすぎない規模だった上に、業績も芳しくなかった。そんな企業にわざわざ来てくれる優秀な人はほとんどいなかった。だから、自分たちで社員を優秀な人材に育てるしかなかったのです。