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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

数カ月前に自動車メーカーのトップによる金銭がらみの不正が報じられました。引責辞任につながる事件になり、とても驚きました。それまでに燃費などの検査不正や品質データ偽装もありましたし、近年日本の製造業で不正が続いています。当社でもコンプライアンス(法令順守)教育を強化しましたが、これだけで効果があるか疑問です。不正を抑える効果的な手法があれば教えてください。

編集部:2019年9月に日産自動車社長兼最高経営責任者(CEO)を務めていた西川廣人氏が辞任しました。株価連動型報酬制度「SAR」を利用し、社内規定を超えた不正な報酬の取得があったことが社内調査で発覚。意図的な不正ではないと本人が弁明し、社内調査でも違法性がないとの判断でしたが、ガバナンス(企業統治)上の問題があるとの指摘に抗弁しきれず、引責辞任という結果になりました。

 まさか、2018年に逮捕された同社元会長のカルロス・ゴーン氏に続いて、跡を継いだトップまでもが、金銭関係の不正で更迭されるとは思いもよりませんでした。

肌附氏— ゴーン氏のこの件について、かねて私は同氏を辞任に追い込んだ日産自動車側のプロセスに疑問を感じる点がありました。ゴーン氏の不正が本当だとすれば、責任を求める声が社内で上がるのは当然です。ところが、西川氏を含む役員の人たちは、ゴーン氏の不正を止める立場であるのに、事実上黙認していた。にもかかわらず、司法取引という方法を使って自らの責任には触れずにポストを守ったまま、ゴーン氏だけの不正を追及しました。

 こうしたやり方は、企業のブランドイメージを毀損する可能性があります。

編集部:どういうことでしょうか。

肌附氏— 確かに、不正によるトップの引責辞任はマイナスです。しかし、自分たちの責任を棚に上げたかのように見える追及の仕方は、それ以上にブランドイメージを悪化させてしまう可能性があるのです。

 最後に不正が見つかったにせよ、ゴーン氏はかつて日産自動車を窮地から救い、成長路線に乗せた最大の功労者でもあります。従って、慎重に事を進めなければ、「恩人を石もて追った会社」という、好ましくないイメージを持つ人が増えかねません。

 不祥事が発生してしまった際にブランドイメージの低下を最小限に食い止めるためには、自浄作用がきちんと働くことを世間に示すしかありません。西川氏はトップ辞任に伴う混乱をできる限り早く収束させ、次にこの件とは全く関係のないクリーンな役員クラスの人材にトップの座を譲るべきだったと思います。

 それができないうちに、自らも不正で辞任してしまった。自浄作用が働かないと露呈させてしまったのは、ゴーン氏の不正の発覚以上に同社のブランドイメージに負の影響を与える可能性があります。