編集部:管理者の仕事の本分は、部下をマネジメントすることにあるといわれます。確かに働き方改革が導入された今、日本企業では残業や休日出勤を利用しにくくなっています。それでも、予定通りの成果を出さなければなりません。そのため、計画通りに仕事を進めるべく、管理強化を管理者に指示する会社が増えています。
肌附氏—かつて私がトヨタ自動車で管理者を務めていたころは、正直に言って夜遅くまで仕事をする日がざらにありました。今振り返ると決して良いとはいえませんが、業務に多少の後れがあっても残業でカバーする手を使っていたのは事実です。しかし、時代は変わりました。限られた時間内に要求された仕事をこなすために職場をしっかりとマネジメントするのは、管理者の大切な仕事です。
しかし、だからといって、部下による日常業務の一挙手一投足を監視し続けることが管理者の本来の業務だと思っていてはいけません。
編集部:しっかりと管理するには、部下の仕事を細かくチェックしなければならないのではありませんか。
定常業務は部下に任せる
肌附氏—トヨタ自動車の場合、仮に部下の日常業務を事細かに監視しているような管理者がいたら、その人は管理者失格という烙印を押されることでしょう。そうではなく、日常業務はできる限り部下に任せて、管理者がいなくても職場が回るような仕組みや体制にするよう、トヨタ自動車は管理者に求めます。
なぜなら、日常業務にまで管理者がいちいち口を挟んでいては、部下のモチベーションが高まらない上に、上司から言われた事しかできない人材になってしまうからです。部下が自ら考えて積極的に仕事に取り組むようになる「成長の芽」を摘んでしまうようでは、何のための管理者か分かりません。
ただ、トヨタ自動車が管理者に日常業務を部下に任せるように求めるのは、部下の成長を促すためだけではありません。限られた管理者の時間をムダにしたくないからです。むしろ、こちらの方を重視していると言ってもよいかもしれません。
編集部:どういうことでしょうか。
肌附氏—管理者には日常業務の管理よりも重要な仕事があります。部下をやる気に満ちあふれて自発的に仕事を遂行する優秀な人材に育てるのが最も大きな仕事ですが、それ以外にもあります。その1つが、将来の変化を感じ取る能力の習得です。私はこれを「感性能力」と呼んでいます。
管理者は常に、今行っている仕事を検証し、市場や顧客の変化を踏まえながら見直しを行う必要があります。将来を予測した上で、現在やっている事が本当に正しいかどうかを振り返り、課題があると判断した場合には、考え得る手を先に講じたり、起こり得る事態に備えたりして対応しなければなりません。
感性能力を持たないと将来を予見できず、市場や顧客の変化にきちんと追随できません。すると、職場を失ったり、最悪の場合は会社が消失してしまったりしかねません。管理者は人材育成者であるとともに、職場の“守護神”でもなければならないのです。
編集部:確かに、ルーチンワークばかりに気を取られていたら、刻一刻と移り変わる市場や顧客のニーズをつかみ損ねるのは分かります。しかし、「感性」と聞くと、何やら捉えどころがない感じがしてしまいます。