編集部:当然ですが、ビジネスは製品やサービスなどの形で顧客に価値を提供し、その分の対価を得て成り立っています。従って、顧客第一は企業として必須条件のはずです。しかし、企業の不祥事のニュースなどを見ていると、果たして本当に顧客第一で仕事をしているのだろうかと疑問に思える企業があります。顧客第一は、言うほど簡単ではないのかもしれません。
肌附氏—確かに、ほとんどの日本企業が「お客様第一」を企業の理念や方針などに掲げています。むしろ、経営者の中でお客様第一とは言わない人を探す方が難しいでしょう。それほどお客様第一や顧客志向という言葉は日本企業に浸透しています。
ところが、本当の意味で顧客志向になっているかと問われると、自信を持って首を縦に振れる企業は少ないのではないでしょうか。「自分は悪くない」「売れないのは営業部門のせいだ」などと思っていたり、自身の収入アップや出世のためだけに仕事をこなしていたりする社員はいませんか。現場の第一線で働く社員まで顧客志向を徹底している日本企業は1割にも満たないというのが、私の実感です。
編集部:随分少ないなと思う半面、技術者の立場を考えると、今の仕事はかなり細分化が進んでいるため、個々の技術者にとっては顧客の顔が見えにくくなる傾向が強まっていると感じます。つまり、ある程度はやむを得ない部分もあるのかと…。
肌附氏—そうした諦めや妥協、慢心といったものが、まさに顧客第一に背く考えです。仕事を細分化したのは、その方が効率よく進むからという、あくまでも自社の都合です。顧客とは全く関係がありません。
しかし、技術者の中には顧客第一を忘れてしまっている人が意外に多くいます。それは、製品やサービスにお金を払ってくれる人だけを顧客と見なす、視野の狭い見方をしているからです。
実際には細分化された技術者の仕事を含めて、社内の全ての業務は優れた製品やサービスを生み出すためにあります。それはすなわち、全ての業務は顧客のために存在するという意味です。
逆に言えば、顧客のためにならないもの、例えば、売れない責任の押し付け合いや派閥争いといった類いはムダ以外の何ものでもなく、仕事とは到底呼べないと分かるでしょう。製品やサービスを使う顧客の姿を一度もイメージせずに、自分が任された部分の技術だけを見ている技術者についても同じです。そんなことばかりやっている企業は、いずれ顧客から見放されてしまうでしょう。