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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

入社してすぐに「製造業は『現地・現物』が基本」と教わりました。以来、上司から事あるごとに現地・現物の大切さを説かれ、リーダーとなってからは私がメンバーにそれを教えてきました。ところが、新型コロナウイルスの影響で弊社でもリモートワークが前提となり、現地・現物と言えなくなってしまいました。リモートワークで業務上の課題を処理できるかどうか不安に感じています。

編集部:トヨタ自動車は特にトラブル対応に優れているというイメージがあります。トラブルが発生したら直ちに現場に向かい、問題を起こしている現物を見て手を打つ。それにより、短時間でトラブルを解決する。自社だけではなく、自然災害などで部品メーカーの工場が稼働を停止したときに、トヨタ自動車から支援チームが現地に駆けつけて短期間で再稼働に持ち込むという話はよく聞きます。

 でも、このような対応は、現場に行けず現物を見ることも触ることもできない状況では全く機能しないはずです。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、実は、トヨタ自動車も現地・現物を諦めようと考えていたりするのではありませんか。

肌附氏—結論から言えば、リモートワークであっても現地・現物は効果を発揮します。従って、トヨタ自動車が現地・現物を諦めることも捨てることもあり得ません。これまで通り、トヨタ自動車が大切に守っていく経営思想の1つです。

編集部:しかし、政府や自治体から外出禁止令や自粛要請が出ていたら、現地に赴くことすらできません。やはり、現地・現物は言葉の定義からして不可能になるのではありませんか。

肌附氏—それは現地・現物を誤解しているからです。確かに、今では多くの企業が現地・現物と口にするようになりました。しかし、ほとんどの企業が、現地・現物を表面的に捉え、「とにかく現場に行って実物を見るのが大切という教え」と解釈しています。

 そうではなく、起きた事象に関する情報を徹底して集め、その中から意味のある情報(真実)を捉える。そして、それを基に解析を行って有効な解決策を見いだす。これがトヨタ自動車の現地・現物であり、「心」なのです。

 トヨタ自動車の考え方や手法を紹介する本はたくさんありますが、現地・現物を正しく理解して伝えているものを私は知りません。トヨタ自動車の中で実践して初めて身に付く考え方なのかもしれません。

編集部:私も知りませんでした。現場に足を運ばず不確かな情報でものづくりを行ってはならないという戒めの言葉だとばかり思っていました。