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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
競合との厳しい競争に加えて、新型コロナウイルスの影響を受けて売り上げが急に落ち込んでいます。足元の売り上げを回復させ、今後の「ウィズコロナ時代」に経営を安定させるために、経営陣は売れ筋製品を造れと、我々開発部門に発破をかけています。トヨタ自動車は他の自動車メーカーと比べてクルマがよく売れています。なぜ売れるのか、その理由を教えてもらえませんか。

編集部:トヨタ自動車の売上高は30兆円規模になっています(2018年度と19年度)。振り返ると、特に「カローラ」を発売した1966年以降、景気変動の影響を受けながらもトヨタ自動車の売り上げは成長してきました。これはつまり、売れる製品を50年以上にわたって造ってきたことを意味します。自動車業界は競争が激しいのに、なぜトヨタ車は他社よりも売れ続けてきたのでしょうか。

肌附氏—「やっぱり、トヨタが無難だな」と言って、最終的にトヨタ車を選んでくれるお客様が多いからでしょう。率直に言って、トヨタ自動車のクルマに機能や性能、外観や内装デザインなど、いわゆる製品上の魅力という点において、他社に比べて突出しているものがあるかと言えば、ないと思います。

編集部:確かに、トヨタ車に対して「凡庸だ」という声もあります。しかし、トヨタ自動車は幅広い車種を造っており、最先端の技術を搭載したクルマもあるはずです。

肌附氏—もちろん、製造業なのですから技術開発には力を入れています。例えば、複雑な構造のハイブリッドシステムを低コストで造れる力を持っていたり、最近では2次電池の中で期待されている全固体電池の開発で業界をリードしていたりなど、それぞれの技術分野で開発部門は世界一を目指して一生懸命に取り組んでおり、その成果は出ていると思います。

 しかし、技術全般を見渡すと、少なくとも先進国の自動車メーカーの中では似たり寄ったりの技術力ではないでしょうか。それほど自動車業界の競争は激しいのです。どこかが先陣を切ってある技術を投入しても、すぐに他社が追従してきます。つい数年前まで新技術ともてはやされていた衝突回避用ブレーキ支援機能も、今では標準的な装備になっています。現在、自動運転や電気自動車の開発が過熱していますが、どこかが先に実用化しても、すぐに横並びになると私はみています。