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大部屋制の正体は「全員参加」

編集部:え? トヨタ自動車は大部屋制を敷いており、それ故に品質が良く効率の高い開発・設計を実践できると理解していたのですが、違うのですか。

肌附氏—外部の人が大部屋制と呼んでいるのは、恐らく「全員参加」のことだと思います。全員参加であれば、トヨタ自動車は昔からごく当たり前のように実践しています。全員参加という言葉の下に、いろいろな部門から人が集まって議論している様子を見て、外部の人が大部屋制と呼んだのでしょう。

 トヨタ自動車の出身者でも、他社を指導する際などに便宜上、大部屋制という言葉を使うケースがあるようです。そうしたこともあって、「トヨタは大部屋制を採用している」という認識が日本の製造業の間に広まっていったのだと思います。

編集部:まさかそうだったとは知りませんでした。では、典型的な全員参加の事例を教えてください。

肌附氏—クルマの設計関連では「工程検討会」が挙げられます。クルマの設計ではまず、どのような自動車を造るかを考える「企画検討会」を開きます。ここで企画が固まった後、試作業務が動き出すタイミングで開催されるのが、工程検討会です。

 工程検討会に参加するのは、クルマの設計から量産までに関わる全ての部門。設計部門が主体となり、生産技術部門や生産部門などいろいろな部門から人が出席します。

 私が現役の時によく参加したのは、設計部門と生産技術部門のメンバーから成る工程検討会でした。生産技術部門からは素形材や、機械加工、プレス加工、車体組み立て、生産ライン、設備、金型といった各担当分野から技術者が参加します。1つの工程検討会の人数規模は10人程度といったところです。

 この検討会の目的は、性能や品質、コスト、生産性などの求められた目標に向かって各担当者が全員参加で討議し、最善の造り方を考えることです。トヨタ自動車では昔から続けているものです。

編集部:工程検討会にはどれくらいの時間をかけるのですか。

肌附氏—最低でも半日、丸1日かけるのも珍しくはありません。しかも、1回では終わりません。技術の新規性によって増減するのですが、合計で5~8回ほど開催するのが普通です。また、この工程検討会は主要部品ごとに設けます。そのため、1つの車種で工程検討会は合計200ぐらいあります。

編集部:そこまで力を入れるのですね。工程検討会はどのように進めるのですか。

肌附氏—工程検討会の1回目は、仕様や外観デザイン、市場投入時期の計画など、企画・設計したクルマの性能や商品価値の詳細について設計部門が説明します。2回目はその説明を受けて、生産技術部門のメンバーがそれぞれの専門的な立場から意見を述べ合う。そして、3回目以降は設計部門がオブザーバーを務めつつ、生産技術部門のメンバーが、設計部門の要求する性能と商品価値を満たし、かつ低コストで造るための具体的な方法について話し合います。その方法を見つけるまでに大体5~8回程度の工程検討会の開催を要するというわけです。

編集部:試作までできていれば、コストは既に設計に織り込まれているのでは?

肌附氏—もちろん、コストも考慮して設計していますが、完璧ではありません。あくまでも設計部門が知る範囲でしかないからです。生産技術の詳細な点までを把握し、低コストを徹底して追求した設計に仕上げるには、やはり専門家の知見が必要です。だからこそ工程検討会を開き、生産技術部門の各分野の担当者の意見やアイデアに頼るのです。